2022-01-30 メメントー・モリー

山下です。

ラテン語表現を紹介します。

Memento mori. 死を忘れるな 

日本では「メメント・モリ」のカナ表記で知られる名句です。メメントは「忘れるな」、モリは「死ぬこと」を意味するので、「自分もいつかは死ぬという事実を忘れるな」という趣旨の警句だとわかります。

ラテン語は母音の長短の区別を重視します。Mementō morī.のつづりを見ると、ōとīの上に横棒がついています。これは長母音の印でマクロンと呼ばれます。これに注意して読むと「メメントー・モリー」と発音できるでしょう。

語彙の説明をすると、「覚えている」を意味する動詞 meminī の命令法・能動態・現在、2人称単数が mementō で、「(あなたは)覚えていなさい」を表します。morī は、形式受動態動詞 morior,morī(死ぬ)の不定法・現在です。合わせて、「(自分が)死ぬことを覚えていなさい」という意味です。

他人の死を忘れてはならない、という意味ではなく、自分がいつか死ぬ身である、ということを胸に刻め、という意味で用いられます。一方、『ギリシア・ローマ名言集』(柳沼重剛著、岩波文庫)によれば、「汝みずからを知れ」(ギリシア語で「グノーティ・サウトン」、ラテン語で cognosce tē ipsum.)の意味するところは、「汝は不死なる神ではなく、死すべき人間であることを自覚せよ、ということ」と解釈しておられます(56ページ以下) 。このとき、有名なデルポイの神殿に刻まれた「汝みずからを知れ」と「メメント・モリ」は同じ趣旨のメッセージとして受け止めてよいことがわかります。