『よみきかせ』について

下村 昭彦

科目を問わず、勉強にとって重要な能力とは何でしょうか? 記憶力? 計算力? 理解力? いろいろありますね。私は最も重要なのは読解力ではないかと考えています。つまり、問題文を読み解く力。それは、英語でも国語でも社会でも理科でも、そして数学でも同じです。私は今までいろいろなところで数学を教えてきましたが、数学においても最も重要なのは読解力です。それはなぜでしょうか。

ここで、「問題を解く」という行為において必要な力について考えてみましょう。まず、文章を読めなければなりません。あたりまえですね。数学は「~を求めよ」といった短い問題文が多いですが、逆に文章題では他の教科より長くて複雑な文章で出題されることも少なくありません。その際にまず必要なのは長い文章を読む体力です。問題文を読むことを途中で投げてしまっては、当然問題を解くことはできません。

次に必要なことは、問題文の内容を理解することです。A という条件とB という条件があり、時点C まではA が時点C からD まではB が適用される。さらにD 以降はA、B のいずれも適用されない。といった複雑な条件が設定されていることは、高校入試の問題でもよく見られます。この場合重要なのは、時間の経過に沿って条件が変わることをイメージできるかどうか、ということです。

また高校生の分野でよく見られるものが場合わけです。場合わけも条件がいくつもあると混乱して何をすればいいのかわからなくなる生徒が少なくありません。この場合には、条件を整理して、問題を考える際にいったいどの条件が問題になっているのかを考える必要があります(当然ですが、考えるときに二つ以上の変化を理解することは困難です。ひとつひとつ考えていく必要があります)。問題の内容を理解して整理すること。これが2 番目に重要なことです。

そして、3 つ目。出題者が何を問いたいのかを推察することが必要です。これはすなわち行間を読む力です。なぜこのような式でこのような条件が設定されているのか。どういう計算をさせたがっているのか。自分のどのような能力を問われているのか(計算する体力か、論理的思考力か、etc…)。出題者の意図がわかれば、おのずとやるべき行動が見えてきます。頭の中で出題者の思考を繰り返してみればよいだけです。

さて、読解力が必要なことはわかりました。じゃあ、どうやって身に付けるのか? これはもう、文章に繰り返し触れる以外ありません。英語が得意になるにはどうしたらいいでしょう? 何度でも、覚えるまで英文を読みますね。何種類もの英文を読みますね。その過程で語彙を覚え、文法を理解し、いつしか初めて読む英文を読解できるようになります。数学的文章にしても然りです。(子供のころ、計算ドリルで苦労しましたね。あれは、「数学」という言語の語彙を覚えさせられていたわけです。)

ではそもそも、読解力とは何でしょう? 私は、「イメージする力」だと考えています。文章はストーリーです。読解力があるとはすなわち、書かれた文章から具体的なストーリーをイメージできる、ということを指します。私が文章を理解するときには、自分が主人公であるところを想像し、まるで映画のように文章を頭の中で再現します。これは私のやりかたですから、音楽としてイメージする人もいるかもしれませんし、一枚の絵画としてイメージする人もいるかもしれません。いずれにせよ、ストーリーがイメージできるということが最も重要です。(そして、登場人物に感情移入するということも重要です。数学でたとえるなら、1 分に1cm の速さで頂点A から頂点B まで移動する点P の気持ちになりきるのです(^-^))

文章からストーリーをイメージするのにいきなり数学の文章から入るのはなかなかつらいものがありそうです。というわけで、やっぱりオーソドックスに物語を読むところから始めましょう。

物語を読んで、主人公になりきって、ストーリーを楽しむ。いいですね。私の大好きな娯楽のひとつです。ところが、読書が嫌いな子どもがたくさんいます。そもそも読書する習慣がないのです。どうして読書が習慣づかないか。ストーリーを楽しめないからです。なぜか。感情移入できない、場面が想像できない、などやはり「イメージする力」が欠けているからです。

さて、ここからが本題です。「イメージする力」を身に付ける上で重要なことはなにか。私はそれは幼児期の読み聞かせであると考えています。文章を読めない小さな子どもでも、大人が読んで聞かせてあげればストーリーを楽しむことができます。読み聞かせのときに声色を変えてより臨場感を出してあげると、さらに楽しめます。鬼が出てきたら怖い声、犬が出てきたら楽しそうな声。子どもたちは読んでもらっているストーリーから、とてもリアルに場面を想像します(絵本であれば、絵もそれを助けてくれます)。

そのときの、楽しい思い出、言葉を聴きながら場面を想像した記憶。それが、魂に染み付いて力となって大人になってから読解力となります。私は、子どものころに親が読んでくれた絵本のストーリーやそのときの声色、怖い場面でないた思い出、今でもはっきりと覚えています。

お父さん、お母さん、子どもが絵本を持って読んでほしいと言ってきたら、忙しい中でもぜひ読み聞かせをしてあげてください。幼児期の英語教育や情操教育もいいでしょう。でも、両親から愛情たっぷりに聞かせてもらうお話ほど子どもにとって楽しいことはありません。寝る前の10 分でいいのです。読み聞かせは、大人にとっても楽しい思い出となり、そして子どもにとっては思い出であるとともに大人になってからのかけがえのない財産なのです。
(2006.2)