英語講読
1.The Temper of Our Time「現代という時代の気質」  Eric Hoffer(1902-1983)
2.The Human Condition「人間の条件」 Hannah Arendt(1906-1975)
を読み終えて

 1.2.2017年度春学期から2018年度冬学期にかけて連続して講読してきました。ホッファーは港湾労働者、季節労働者を出発点としたアメリカの哲学者、アーレントはドイツからアメリカに渡った哲学者です。

 

 さて、前近代、近代そして現代へと社会は加速度的なスピードで変化し、その変化を明確に述べることはかなり難しいことになります。そして我々もその変化故に漠然とした不安を感じることになるのではないでしょうか。

 

 両著はその時代の変化をある幾つかの視点を定めて分析します。すると幾つかの点がある方向性をもって並んできます。視点はいわば座標軸になると言えるでしょう。座標の設定は両著に共通していることもあるし、データとしての点が共通していることもあります。2著の重ね合わせでより厚みをもって理解することができます。また両書は共に今後の対処にてどうあるべきであるとか、変化はどうなっていくといった予測に言及はしていません。それはどうした視点でどうした状況かに依存するからだとおもえます。もしそうしたことをするならば各々自身が行うことになるのでしょう。

 

 1.は若者の気質として自分が一番となることを顕示した時代から自動化が押し寄せ、額に汗して人が働くことがどんどんなくなってきた時代、またアメリカ黒人の変革がフランス革命の民衆の蜂起とどう違っているのか、権威的だった知識階層から多くの学歴を持った人間が支配層となったところの変遷、その中で経済と人間性・精神性としての正しさとが競合する事、等々を語ってくれます。

 

 2.人間の条件の最たるものの一つはこの地上に生れ出て死ぬこと、地上の自然から生産されたものを口にして生きていること。そしてその人間は今、ごまんとある人工物を作り出し、それに囲まれて暮らしています。こうしたモノ(生活品、道具、ルール、建築、ありとあらゆる)を作りだすことも人間の本質であり、人間の条件になります。人間の条件を中心に見据えたときに人間がどういう事態・社会の中で生きているかを照らしてくれます。

 変化の起因を人が地上の世界から宇宙に視点を変えたこと(アルキメデスの支点:天動説から地動説へ:地球から天を仰ぐから宇宙から地球を見る視点の変化)、そして時代転換の節目をガリレオが望遠鏡という装置をもって地動説をはじめて実証したこと(ガリレオの発見)、そして実証されないことは何でも疑いとなる(デカルトの疑念:以降人は疑念の中に囚われてしまう)とアーレントは設定します。またもう一つ人間のモノづくりの本質を利用してアリストテレスが最初に人事をルールづけする方策を編み出し、それ以降社会はこの方策の上に載って統制されていることを指摘します。

 そして変化はモノを対象にすれば職人の、使用の価値観から市場の交換の価値観へ、そして消費社会の価値の喪失へと変化し、科学を対象にすれば、古典物理学から宇宙物理学へと扱うものが一般にはわからないものになり、人の関心は世界から自身の内側へと、そしてそこで重大視されるのは世界から個人の生命へと変遷すると説きます。その方向性は総じて確たる対象ではなくなり、プロセスの中に入れられることになると。

 また人の能力において特筆されるのは行動であるとも説きます。なぜならそれは変化を起こす力だから。変化がないことを考えれば変化の意義の大きさは明らかでしょう。また必然として変化には、影響を与えるということも含めて複数の人間が関与することを。

 

 両著が与えてくれるのは洗練された座標軸といえると思います。ホッファーから、アーレントから提供された座標軸を元に自分が社会を、人をどうとらえるのか、あるいは自身の座標軸をどう作るのかというところに立たされるのです。つまり、それを使ってどう生きていくのかと。生きていることは行動をすることになります。行動には複数の人間が関与することになりそれは必然人間関係になります。人間関係は上下、横並び、集団等々の型があり、それぞれの特質が出てきます。歴史を振り返れば集団は時に衝動的になることで注意せねばならないと教えてくれます。

 

 最後に両著共に講読にやさしいものではありませんでした。こうして完読に至ることができたのも浅野直樹先生のご指導のお陰によるものです。そしてこうした機会を与えてくださっている山の学校のお陰でありますことを心より深く感謝いたしております。まことにありがとうございます。

 

2019.3.18 山下 和子