『山びこ通信』2003年7月号より
山の学校の創設第1年目、「ことば」クラスの様子です。執筆は故・山下一郎先生です。

『ことば』 山下一郎

 山の学校の“ことばの教室”がスタートを起こしてから、ほぼ3ヶ月経過しました。

 53年間の園生活の経験はあるものの、小学生相手のことば指導──作文指導は全く初めてのことですので、何からどう手をつけたものかと戸惑いながらも、私が日頃日本語に対して抱いている思いと、長年の幼児との触れ合いから得たものとをミックスさせながら、学校でもなく、塾でもない、オリジナルなことば教室の創造に向けて、焦らずじっくりと取り組んで行こうと心がけて、今日に到りました。
 作文教育の前にまず手掛けましたことは、友達の前でのお互いの口頭発表でした。口頭発表と作文との相関関係を意外に思われるかも知れませんが、人前で発表するということは、頭の中の原稿用紙に、伝えたいことを刻々と纏めながら綴って行く、かなり難度の高い作業でして、この原稿用紙のない作文は、原稿用紙に書く作文のように書き直しが効きません。
言い直しはできますが、かっこよくありませんから、誰しも避けたいところです。ですから初めは原稿用紙でいえば、ほんの2行か3行程度の発表に止まっておりました。しかし、自己紹介から始まって、自分の生い立ち、自分の名前の由来など、回を追うごとにお互いに打ち解けてきたせいもあってか、何回目かに行った、ご両親にはナイショで“お父さん、お母さんのステキなところを見つけてくる宿題”の発表の折りには、生き生きと得意げに、しかも、けっこう時間をかけて伝え合うことが出来ました。

 こうして、鉛筆を持たない作文、口頭発表による作文のトレーニングを重ねる一方、話の読み聞かせ(初めの間は紙芝居の鑑賞)も毎回行ってきました。そのつど、あとで感想文を書いてもらっておりますが、これも、現段階では作文教育で求められる、細かい言い回しや“てにをは”などにはあまりこだわらず、話の内容をどれだけ的確に把握できたか、その内容を、ひとりひとりはどう受け止めたか、どう感じたか、といった観点に重きをおくことにしております。
 文法にとらわれないためか、自由な発想で個性豊かに感想が述べられておりますので、どの生徒の感想文にも褒めるべき箇所が、必ず1、2箇所は見出せます。そこを称揚します。認められることは自信につながり、次のやる気にと発展します。
 先ずは、書こう! 書きたい! の気持ちを持ってもらうことが先決なのです。と同時に生徒達は、感想文をあとで書く必要もあって、話を聞くときは目を閉じて静かにこころを集中させながら、静寂の気配にひたっています。このような雰囲気を、現代の子ども達はどれだけ味わっているでしょうか。

 一方“ことば遊び”と称して、学年ごとに押さえておいてほしい、漢字の読み書きなどを含めた国語の基礎的な問題点と、ゲーム感覚で楽しく取り組んでもらうため、毎回、各学年毎の問題の作成にも腐心しております。

 だいたい以上が、“ことばの教室”のこれまでたどってきた主な経緯ですが、土砂降りの日も、遠足でくたびれたその日も、山道を勇んで駆け上がって来る生徒達の元気な姿に接しますたびに、また次の週への“お話選び”や“問題作り”に意欲を燃やしている今日この頃です。

(文責 山下一郎)