『夏の蒸留物』──「英語で味わうシェイクスピアのソネット」を受講して  

 シェイクスピアのソネットから、詩作のインスピレーションを得たいと思って、私はこのクラスに参加しました。たとえば、ソネット第5歌を学んだときのことです。summer’s distillation(夏の蒸留物)という詩句に、この8月にペルセウス座流星群をはじめて見たことを思い出しました。原文では、若さや美しさの比喩としてのrose water(ばら水)のことです。それがぽたぽたと瓶に精製されるイメージから、流星群もまた夏の蒸留物だという着想を得ることができました。

 2019年12月から受講し、2年が経ちました。坂本先生は、一週間に一歌のペースで、韻律、文法、詩の表と裏の意味をじっくり解説されます。毎回、目から鱗です。

 ソネットでは、一つの単語にニュアンスが三つも四つも重なることがあります。そのことをシェイクスピアが意図して書いているだろうときなど、まるで探偵小説のようであり、日本語訳では味わえない愉しみです。訳では、意味をどれか一つしか選べないという制約があり、となるときれいなものが選択されやすく、上品な訳におさまってしまいがちだからです。第1~17歌は「子作りソネット」(The Procreation Sonnets)とも言われているそうです。美の永遠性がうたわれる一方で、かなり下品なところまで意味の広がりを持っていることには驚きました。しかしそれが脂なのです。落語の『目黒のさんま』ではないですが、「英語(原文)で味わう」とはこういうことなのかと得心しました。

 シェイクスピアは、恋人(青年)の美を夏のそれとくらべたり、その移ろいやすさを忠告します。だからこそ子孫の中で、命の線(line of life)によって自身の美を再生産することを恋人にすすめます。また「時の神」に宣戦布告し、「君をぼくの愛が詩の中で永遠に若くさせてみせる」(My love shall in my verse ever live young.─19.14)と意気込みます。

 弱強五歩格(iambic pentameter)の韻律にもはじめて触れました。内容と形式の一致に、「シェイクスピアは天才だなあ」と感心することしきりです。たとえば「時」がテーマであればメトロノームのように安定したリズムが刻まれます。また、激しい口調では句またがりが、美青年に愛を懇願する時には、詩人が女性に変身したかのように、言いさしの表現が多く出てきました。暴力的な内容にはbやdの破裂音、嵐にはsの音の多用。いったい、これを書くためにどれほどの推敲がなされたことでしょうか。

 それまでは、シェイクスピアのソネットと聞くと、すっぱいブドウのように敬遠していました。しかし、いざ味わってみると「美味しい」です。みなさまにもおすすめします。(福西亮馬)