山びこ通信2021年度号(2022年2月発行)より下記の記事を転載致します。

『漢文入門』『漢文講読Ⅰ』『漢文講読Ⅱ』 『東洋古典を読む』

担当 斎藤 賢

①「漢文入門」

本講座は漢文の基礎文法を習得し、自力で返り点のついた文章を読めるようになることを目的とした授業です。授業の計画としては、まず返り点など訓読の基礎や漢文の基本的構造を解説し、続いて漢文の重要な句法を解説し、その後は返り点のついた文章に挑戦していくことになります。テキストとしては小川環樹・西田太一郎『漢文入門』などを中心に、受講生の関心に沿いながら適宜選んでいきます。
漢文と言えば、教科書にのっているような教訓めいた諺や、漢字ばかりの堅苦しいイメージを抱かれる方もおられるかもしれません。しかし、実際には人の胸を打つ物語や、好奇心をそそられる逸話に満ちており、漢文を学び、理解を深めることで世界は大きく広がるでしょう。

②「漢文講読Ⅰ」
2021年度の秋学期より、漢文に慣れ親しんでもらうことを目的として、志怪小説など怪しい話を中心として、基本的に比較的短い話を選んで読み進めています。
これまでは、六朝時代の志怪である『捜神記』『捜神後記』『拾遺記』から数篇を選んで読み終え、その後は受講生の希望にそって『世説新語』『呂氏春秋』『古神話選釋』などから短編の説話を選び、読了しました。志怪小説には、夜になると頭だけ分離して飛んでいく召使や、狐に誑かされた男、病気の母を看病する三兄弟のもとに突如として出現する生首など、怪しく不思議で、時に恐ろしい話が満載です。現代の怪奇小説にも通じるようなこれらの話は今も読者の興味をそそるものでしょう。
秋学期から冬学期にかけては、人と幽霊の恋物語である「金鳳釵記」を読んでいます。明・瞿佑の『剪灯新話』にみえるこの話は、幼い頃に金鳳釵(金の鳳凰をあしらった簪)を証に結婚の契りを交わした二人の男女が、親の事情で離れ離れとなってしまい、そのうち女性は病気で夭折するけれども、彼女の妹と名乗る人物が現れて、男性と恋に落ち…というあらすじで、男女の情を悲しくかつ美しく描き出しており、単なる怪奇小説とは一味違ったものとなっています。
また、中国の志怪小説は日本のお化けや妖怪にも影響を与えているようで、受講生のかたからは読んだテキストと似た話が日本にもあるとの声をよくいただいています。志怪小説を読むかたわら、日本の物語などと比較することも興味深く、また意義のあることだと思います。

③「漢文講読Ⅱ」

2021年度の春学期より、『史記會注考證』をテキストに読み進めています。司馬遷の手になる『史記』の名は聞いたことがあるかたも多いかと思いますが、瀧川亀太郎博士の手になる『史記會注考證』にはあまりなじみがないかもしれません。本書は『史記』本文に注釈のついた形式となっており、『史記』の三家注と称される南朝宋・裴駰の「集解」、唐・司馬貞の「索隱」、及び唐・張守節の「正義」に加えて、瀧川博士が中日の学者の説や自身の見解をまとめた「考證」が附されています。
現在は戦国時代の人物の列伝を中心に授業を進めており、春学期に呂不韋列伝、秋学期に魏公子列伝、そして冬学期には平原君虞卿列伝をテキストに採用しました。一介の商人から秦国の大臣にまで登りつめたにもかかわらず秦王にその権勢を疎まれ、最後には毒酒を飲んで自殺した呂不韋。義侠心に富み、援軍を率いて秦に攻囲された趙を救い、また諸侯の兵を率いて当時圧倒的勢力を誇っていた秦軍を函谷関以西に封殺するなど、赫赫たる功績をあげるも、讒言のために憂いに沈んで病死した信陵君。『史記』の記す人々の多くはこのように優れた才能を持ちながらも悲愴な運命を辿っています。しかし、だからこそ彼らの鮮烈な生きざまは読者の心に深い印象を残すのだと、私は感じています。また、司馬遷の妙筆が描く人物たちは、2000年以上たった今もなお色褪せず、読者の眼前に彷彿として現れるかのようです。さらに、『史記』理解の助けとして、関連する文献や考古学的遺物などもご紹介しつつ、古代中国がイメージできるような授業を目指します。
なお、本授業は丁寧な解説を心がけていますので、初心者のかたでも不安に思われる必要はありません。受講生からは授業を受けるなかでだんだんと読めるようになってきた、という嬉しい声もいただいています。

④「東洋古典を読む」
2021年度春学期より担当している本授業は、長らく読み継がれてきた中国の古典を読むことを趣旨としています。春・秋学期は清・盧弼の『三国志集解』や『三国演義』をテキストに選び、『三国志集解』では曹操の伝記である武帝紀を、『三国演義』では桃園結義や官渡の戦いの場面を読み進めました。『三国志』は古来簡潔な名文として知られており、『三国演義』は日本でも人気を博した古典小説といえ、単に漢文を読む力をつける以上の価値があったと思います。また、特に『三国演義』は白話の要素もあるため、テキストに選ぶ際はややためらいもありましたが、丁寧に読んでいくうちに、熱心に参加してくれていた受講生からもだんだんと文法や表現方法に慣れてきたとの言葉をもらい、嬉しく思う場面もありました。
今後も、東洋の古典を読むという方針に基づき、以下のいくつかをテキストの候補とし、受講生の関心にそってテキストを決定し、授業を進めていきます。
〔経書関連〕
・『論語集釋』
・『孟子注疏』
・『春秋左傳正義』etc.
〔小説〕
・『三國演義』(及び正史『三國志』)
・『封神演義』etc.


『論語集釋』『孟子注疏』『春秋左傳正義』はそれぞれ古典として名高い『論語』『孟子』『春秋左氏傳』の注釈書であり、これらの原文をより深く理解するために有用な書となっています。特に『論語』などは一つ一つの言葉が短いこともあって、理解の難しいところもありますが、歴代の注釈を参考にすることによって、自分なりの理解が得られるようになることに大きな意義があると思われます。
一方、『三国演義』や『封神演義』については、話自体が面白い、ということのみならず、白話の要素もあることで、漢文のみならず、現代中国語の学習にも役立つところがあるでしょう。授業の際は訓読してもらっても、現代中国語でよんでもらっても構いません。
いずれも丁寧な解説を加えていきますので、これらの本に関心はあるけれども、なかなか手が出ない、といったかたはぜひご参加ください。

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