山びこ通信2020年度号(2021年3月発行)より下記の記事を転載致します。

『ことば2~3年』

担当 福西亮馬

 2019年2月から『黒ねこサンゴロウ』(竹下文子、偕成社)のシリーズを読んできました。この稿を書いている時には、第10巻に入りました。最終巻です。
 サンゴロウは、記憶喪失でありながら、船乗りとして自立しています。事件に巻きこまれても、権力にはおもねらず、暴力には冷静に対処します。一方でおせっかいなことはせず、「それは彼らが考えることだ」と突き放すこともしばしば。生き方を押しつけることも、押しつけられることもない。そこが魅力でした。サンゴロウのマリン号の旅もいよいよ終わりに近づきました。シリーズものを読み終えるという達成感をぜひクラスで味わいましょう。
 つぎのテキストを紹介します。『ポリーとはらぺこオオカミ』(キャサリン・ストー、掛川恭子訳、岩波書店)のシリーズ(全3冊)です。「赤ずきん」をはじめ童話のパロディで構成されています。思わず音読したくなるようなオオカミのセリフ。ページをめくることがとにかく愉しいです。作者は自分の子どもたちに読み聞かせるために書いたといいますが、頷けます。文字や声から自分の想像力でイメージすることを応援してくれる作品です。
 本読み以外の時間では、主に俳句を暗唱しています。年間で50ずつほど紹介し、昨年度からの生徒には100になります。たとえば以下は田中裕明(1959-2004)という人の句です。
 水遊びする子に先生から手紙  田中裕明
 初雪の二十六萬色を知る    田中裕明

 田中裕明は45歳で亡くなりました。1句目は、家の前に出されたビニールプールでしょうか。「先生からよ」という母親の声。手紙を受け取る前に、とっさにぬぐう手のしずく。2句目は、工学部出身の作者が顕微鏡をのぞいた時のことでしょうか。それともRGBで表せることを言ったものでしょうか。映像化は読者の想像にゆだねられます。
 俳句は世界最小の詩です。五七五では何も言えないのが本当のところです。だからこそ、愛唱するたくさんの読者の想像力によって「ますます」完成します。その意味で、掲句は、読者のいる限り、いつまでもみずみずしさをたたえていることでしょう。名句か否かは作者ではなく読者が決めるのです。そのような俳句の魅力を、受講生と共有することができれば幸いです。

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