『漢文入門』クラス便り(2019年2月)

「山びこ通信」2018年度号より下記の記事を転載致します。

『漢文入門』

担当 陳佑真

今年度の漢文入門は、受講生が初学者の方一名となりましたので、レ点や一二点といった漢文訓読の規則、頻出の助字の意味や係り結びなどの基礎的な説明から学習を始めました。

ある程度漢文訓読の規則に慣れてきた頃から、私が毎回漢文の原典のコピーをお配りしてそれを予習してきていただき、教室にて一緒に読んでいくという方法をとっています。

今年度はまず、中身の腐った蜜柑を市場でつかまされ怒る宰相に対して蜜柑売りが、朝廷の人たちこそ「其の外を金玉として、其の内を敗絮とす(うわべだけを立派に飾り立てて、その内面はぐちゃぐちゃだ)」と言い返して宰相は黙ってしまった、という明の劉基の諷刺作品「売柑者言」から始めました。そこから、韓愈の文学を顕彰した蘇軾の名作「潮州韓文公廟碑」、諸葛亮「出師表」などを読解し、珍しいものでは科挙の優秀答案も実際に読んでみました。

課題選択の基準としては、基本的には古典として日本や中国で古くから親しまれてきた作品、また、できるだけ背景知識がなくても読むことのできるものを中心として、時代は魏晋南北朝から清代のものまで、内容は作者の飼い猫の伝記から当時の貴族社会への批判まで、幅広い漢文に触れることができるように、ということを意識しております。

漢文はただ表面の意味を追うだけでも面白い作品がたくさんありますが、作者はどんな背景でこのような主張をしたのか、このような修辞にはどんな意図が込められているのか、といったところまで意識を向けることができれば、何気なく見過ごしてしまいがちな漢字の羅列の中から生々しい感情を読み取ることができます。

漢文の読み方に絶対の正解はありません。教室では受講生の方が丹念に辞書を引いて予習してきてくださり、こう理解することはできないだろうか、当時の社会環境から考えればこの読みの方がより蓋然性が高いのではないだろうか、と積極的に議論を行うことで、私も大いに啓発されるところがありました。これからも、急がず焦らず、文章を味わって楽しみながら思索を深めてゆく学習を続けていきたいと願っております。