『中学理科』(クラスだより2013/2)

今号の山びこ通信(2013/2)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)

『中学理科』(担当:高木彬)

春学期と秋学期のこの欄では、隔週で取り組んでいる実験の話題を中心に書きました。今回は、そのほかの取り組みについて簡単にご紹介します。

二週間に一度、実験のない週には、練習問題を解いてもらいました。これまで習った範囲を単元ごとに復習しました。現在、受講している3人は、中学2年生です。それぞれの単元の基礎問題を解いた後には、高校入試も視野に入れて、入試問題にもチャレンジしてもらいました。「入試問題」と聞くと、難解な印象を受けます。しかし、基礎がしっかりしていれば、恐れることはありません。あるとき、Y君が「入試問題のほうが簡単やった」と言ったことがありました。理科の単元の中には、得意なものも、そうでないものもあります。しかし、得意ではない(と自分が思っている)単元ほど、基礎問題の段階で個別にフォローすれば、その伸び幅は著しい。「入試問題のほうが簡単やった」という言葉からは、基礎が身についたことへの自信が読みとれました。

実験や練習問題のほかには、僕たちが「質問コーナー」と呼び習わした時間もありました。始まりは4月の最初の授業。小さな装置を使って、上昇気流によって回転する風車の実演をしたときでした。上昇気流が起こるのは、熱せられた空気が膨張して軽くなるからだということ。空気を熱すると軽くなるのは、熱エネルギーを得ると空気を構成している分子の運動が活発になり、分子と分子の間の距離が広がって密度が低くなるからだということ。空気を構成している分子には、窒素(78.1%)、酸素(20.9%)、アルゴン(0.93%)、二酸化炭素(0.032%)などがあるということ。そこまで解説したとき、M君は言いました。「アルゴンって、どういうはたらきをしてるの?」思い返せばこれが、「質問コーナー」の始まりでした。たしかにアルゴンは、実は二酸化炭素よりもはるかに多く含まれているにもかかわらず、あまり知られていません。希ガス元素の一つであり、陽子と電子の数が釣り合い安定しているため、ほかの原子とほとんど化合しない。また、原子量(原子の重さ)は40。空気の平均分子量は28.8だから、空気より重く、原子量2の希ガス・ヘリウムとは違い、宇宙空間へは拡散しない。化合物にならず、拡散もしないので、空気中に混ざるよりほかない。つまりアルゴンは、酸素や二酸化炭素のように何かのはたらきを担っているから空気中に含まれているというよりは、どこにも行き場がなかったから空気中にとり残されたのです。「アルゴン」の語源は、「不活発な」を意味するギリシャ語αργονです。(この物質の面白さに着目した安部公房は、短篇「魔法のチョーク」の主人公の名前を「アルゴン君」としましたが、これは余談です。)

ともかく、このアルゴンを始まりとして、その後、切れ目なく質問が続いたので、コーナー化したのです。H君のブラックホールについての質問からアインシュタインの相対性理論の話になったり、なぜ握った手(細い筒)の隙間からだとよく見えるのかという質問からピンホール原理の話になって実際にピンホールカメラを作ったりと、実に豊かな時間になりました。

ただ最近は、こうした質問形式に飽き足らず、「自由研究」に重心がシフトしてきています。たしかに、自分が「これは!」と思う疑問については、納得のいくまで自分で調べ尽くさなければ勿体ない。「中学理科」という枠をはるかに超える研究に期待しています!

(高木 彬)