『英語の読み書き』(クラスだより)

山の学校設立1年目の「山びこ通信」第3号(2003年11月刊行)からの記事です。(以下転載)

『英語の読み書き』 (担当:山下太郎)

『英語が苦手な君に・・・』

(※この文の読者は、高校生・大学受験生を想定しています)

英語がちょっと苦手な様子ですね。模擬試験の結果が悪くて落ち込んでいるとのこと。学校の勉強は試験範囲が決まっているから試験前に集中的に勉強すればいいのですが、模擬試験となると話は別ですね。大学入試のことを考えると気も滅入る・・・その気持ち、わかります。じゃあ、ちょっと息抜きに、私の「基礎力診断テスト」でもやってみてください。1分で終わりますから。

「わかってそうで、答えが出せなかった」問題はありませんでしたか。つまり、それだけ体がなまっていたということです。すこし厳しい言い方かもしれませんが、内容はごく平凡な高校受験レベルの問題です。本来は90%以上できなければ困る内容ですね。じゃあ、何に困るかと言えば、普段の学校の授業を理解する上で困るということです。先生も困るし、あなたも授業がわからなくなって困るのです。

結論は簡単です。まあ騙されたと思って、中学校で習った勉強のおさらいをしてください。たとえば、大学入試用の単語集を覚えようとがんばっても、中学時代に習ったことの理解がデタラメだと、3日もたたないうちに勉強するのが嫌になります。勉強が続かないのは自分の根気がないためではありません。やり方に問題があるのです。

自分の実力に合った勉強を続ける限り、勉強は本来おもしろいはずです。だれにでもその人にとってふさわしいレベルというものがあるのです。そのレベルの高い、低いはこの際問題ではないのです。自分のレベルをしっかりと見定めることがなにより肝心なのですから。

具体的には、本屋に行って、中学1年生用の問題集を買って解くことです。大学受験生だから、大学受験用の問題集を買う、というのは駄目です。それは誰だってやっています。恐らく初めのうちは、今回の「基礎学力診断テスト」と同じような点数を取るでしょう。私のデータでは、「英語が苦手!」という高校生の場合、たいてい2問に1問は間違う勘定です。

しかし、普段解いている大学受験の問題と違って、間違ったときの気分が全然違うことに気づいてください。つまり、「あっしまった!」とか「そういえば、そうだったなあ!」という感じですね。

大学入試用の問題だと、到底こういう気持ちにはなれないでしょう。たいていが4つから1つを選ぶ形式ですから、できてもマグレということもあるし、できなくても「どうでもいいや!」という投げやりな気持ちになるものです。また、大学受験の勉強では、覚えることがあまりにも多すぎて、なんだかコップで海の水をすくうような空しい気分になってきます。それに対して中学英語の問題は、単語のレベルが限定されています。覚えるべき事柄は、単語というよりむしろ英語の基本的なルールです。例えば、「受動態=be動詞プラス過去分詞」とか、です。

このルールはどう数えてみても200もありません。代表的な例文は、丸ごと暗記すればいいのです。1日20も覚えていけば、10日で終わる計算です。大学受験で問われる内容のすべてを網羅的に覚えようとすることは、たしかにコップで海の水をすくうようなものですが、中学英語の復習は、せいぜい風呂の水をコップでくみ出すようなものです。簡単なことでも、まじめにやっていますと、「これが本当の勉強だったのだな!」という気持ちがわいてきます。

とは言っても、入試問題の英文はそう簡単に読めるようにはなりません(ネイティブにも難解なはず)。根気よく辞書を引いて予習することが基本的に必要でしょう。まじめにとりくめば、うまく訳せずに1時間2時間があっと言う間に過ぎていくものです。しかし、時間がかかると言うことは、単語の知識が少ないためというより、むしろ文法の力、中学英語の理解が足りない結果である場合が多いものです。

受験生ならだれでも知っている単語の一つにstandという語があります。ふつう「立つ」という意味で使いますね。Stand up. と言えば、「立ちなさい」という意味になります。ところが、この単語には同時に「我慢する」という意味もあるのです。たとえばI can not stand it. といえば、「わたしはそれが我慢できない」と訳さなければなりません。もし「私はその中で立ち上がれない」とか訳したら、0点です。では、このような細かな点まで含めて、しっかり単語や熟語を「暗記」していかないといけないのでしょうか。

私はそうは思いません。単語の知識に関しては、強制された勉強は効果が薄いと思います。また、中学英語の理解が単語の暗記の前に不可欠だと再三申してきたつもりです。これは具体的にどのようなことを意味するのでしょうか。例えば、中学1年の英語に戻りますと、前置詞のinの使い方を教えます。「学校で」といえば、in schoolとなるわけです。今の例文 I can not stand it. には、inがない点に注目ください。今の間違いの日本語(=私はその中で立ち上がれない)自体を素直に英語に直せば、どうしてもinが必要になるでしょう。ということは、中学1年レベルの常識的な前置詞の使い方に慣れていれば、問題文のinの有無にもっと敏感になれる、と考えられるのです。

あなたは単語の意味のひとつひとつを無理に覚えていかなくてもいいのです。ただ、いつもと様子が違うぞ、という感覚がピン!と鋭敏に働かないとだめなのです。何か変だぞ!という感覚が、すっと辞書に手を伸ばす原動力になるのです。つまり、ありふれたstandという単語に「我慢する」という訳語を「自分の力で」見つけ出すためにも、中1で習う前置詞の復習は重要です。このような例はいくらでもあります。He runs a small restaurant. といえば、「彼は小さなレストランを経営する」と訳すのであって、けっして、「彼は小さなレストランの中で走っている」とはなりません。あなたは、何も中学校の英語の教科書が読めないわけではないのです。むしろ読めるから、その大切なポイントを無視する傾向があるのです。

最後に私の取っておきの勉強法を申し上げましょう。それは、「簡単な日本語を英語に直す練習」です。

はじめは騙されたと思って、中1レベルに限定して、その英作文がすらすらできるまで繰り返してください。大学生でもすらすらできる学生は希です。まして中3までの範囲で出題しますと、つまずく例文が続出です。わたしが重視するのは英作文としてみた中学英語ということなのです。これが縦横無尽に日本語から英語に直せるレベルに到達できてこそ、真の意味で英文法を理解できた人と申し上げてよいでしょう。

繰り返しますが、覚える例文は200以下です。これは漢字の勉強と同じことです。漢字を「読む」練習も大切ですが、むしろ「書取り」の練習をした方が、短時間で効果があるということです。私も最近はワープロを使うので実感することですが、読み方は知っていても、いざ書くとなると、正しく書けない漢字は案外多いものです。辞書を見ないで書ける漢字は、必ず読めるはずですね。

焦る気持ちはわかりますが、そうせっかちにならないことです。大学に入っても、英語が嫌いで、年々忘れる一方の人が大勢います。大学に行かなくても社会に出て、英語を達者に使っている人が大勢おられます。英語を使い、自分で自分の道を切り開く人になるためにも、徹底して英語の基本を復習し、せめて身の回りのことをすらすら英語で言えるようにしてください。ご健闘をお祈りします。

                            (山下太郎)