山びこ通信(2012〜2013冬学期号)より、記事を転載致します。

『論語の素読・勉強会』

子曰わく―学びて時に之を習ふ、亦説ばしからずや

朝9時から始まる勉強会の前の30分、太郎先生の論語の素読で毎回欠かさず輪唱する孔子の言葉です。「習ふ」=復習する。勉強をする過程で既習のことを振り返ることは、分かったつもりになっていたことに気付き、改めて理解し直す機会となり、まさに勉学の喜びを感じることだ、ということです。勉強会ではこの言葉の意味の深さがさまざまな角度から感じ取れます。それは勉強する子どもたち側の学びでもあると同時に、その勉強を見る立場としてのぶれない軸でなければならないからです。

子どもたちにはもちろん様々な性格があり、それぞれのペースがあります。それに、毎回それぞれが色んな気持ちでお山を登って来るでしょう。最初から最後まで一言も発さずに黙々と取り組む子もいれば、気が散ってしまったり、家から持ってくる課題がすぐ終わってしまい、違うことをしようとしてしまう子もいることは事実です。でも、せっかく一歩ずつ山の上まで登ってきたのだから勉強会においても、きっと見えるであろう清々しい景色を、見せてあげたいと思うのです。

1月19日の勉強会のことです。1年生のHちゃんは、以前に勉強会に来た時よりもたくさん目に課題を持ってきていましたが、勉強するスピードも比例して早くなっているので、まだ9時半なのに1時間半を残して終わってしまいました。するとHちゃんは、あのね、ちょっと、絵を描きたいの、と少し後ろめたそうに色鉛筆を取り出しました。私はちょっと待ってね、と言いました。いま、お兄さんお姉さんも勉強まだしてはるね、せっかくここまでお勉強しに来たんやから、最後までやってみようか、できるはずだよ。・・・するとあっさりと「うんっ」といういい返事が返ってきました。その様子を、4年生のY君、3年生のIちゃんもじっと見ていました。

さて、注目は、それからです。私はさっきHちゃんが終わらせてしまったドリルでつまずいていた、ひと桁引くひと桁の算数の問題を裏紙に15個だけ作りました。丁寧に解いて、全部正解。同じレベルのをもう15個。スピードはまだ遅いけれど、全部正解。次は足し算と引き算を混ぜて15個、すると間違いが出てきて、悔しい気持ちを知るHちゃん。足す、と、引く、は気をつけなければいけない。さっき出てきたのを使えばこう解ける、などの細かい「気づき」があり、Hちゃんの頭の中の神経の、引き算足し算で使う神経系が手を伸ばし合い、繋がっていくのが目に見えるようです。高学年の2人も、お互いに教え合ったり、自分の勉強の合間に一年生Hちゃんの問題づくりに参加してくれたり(既習の問題を、それを勉強中の低学年の目線で作る、ということも新しい気付きがあります)、とてもいい空気が漂って来ました。10時半。そうこうしながら「あと30分しかない!」となるのは、毎度のことなのです。

もうHちゃんは一時間も引き算、足し算、ときどき3つの足し算、二桁引く一桁の引き算などを解き続けています。明らかに間違いも少なく、間違ってもそれに一瞬で気づくようになり、集中力も高まって、エンジン全開です。いや、最初から集中力をみんな持っているのかもしれない、と私は思いました。勉強会においてその発芽しようとする潜在力を活かすも秘めたままにするのも、あの私の「ちょっと待ってね、」次第だったかもしれません。改めて自分の一言の重みに気づくのです。

もうすぐ11時、終わりの時間が近づいて来ました。あれからHちゃんの解いた足し算引き算の数をみんなで数えました。

 

「・・・377個!!!」

 

当のHちゃんはというと、間違った問題が気になって考え顔。あとから、「勉強会でこれを6年生まで続けたら1万、なるかなあ!」と言っていました。その笑顔は清々しく、登頂成功!といった顔でした。

たとえ1万に届かなくても、次回の勉強会ではまた「ちょっと待ってね、」ということになっても、いいと思います。その度にまた少しだけ方向を示してあげれば、誰も知らなかったような頑張りを子どもたちは見せてくれます。解けたと思ったところをもう一度、もう一辺、あと一回、振り返って積み重ね直した時に見える景色は、本人にしか見られないものなのかもしれません。

勉強会ではいつもこのような登山の姿が見られますが、今日書いたのは、そのほんの一部です。この日の4年生Y君の小数点の割り算、3年生Iちゃんの掛け算の筆算、そして毎回の顔ぶれひとりずつに、ここに書き尽くせない「ドラマ」があるのです。勉強会ですること、それは何気なく歩いてきた道を今一度振り返ってみて、自分の足跡がちゃんと付いているか見てみること。そして、あの「論語」の言葉をつぶやいて、もう一度足跡をつけに戻ってみること。

子曰わく―学びて時に之を習ふ、亦説ばしからずや

次の勉強会も、この言葉から始まります。(山下あや)

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