西洋古典を読む(2022/9/21,9/28)その1

福西です。

ウェルギリウス『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)を読んでいます。

10巻の104-197を読みました。

前回、神々の会議において、ユーノーとウェヌスの言葉の応酬がありました。それぞれ50行ほどの長さであるのに対し、続くユピテルの言葉は、10行と手短かです。

その中で、特に気になる表現が2つありました。

10.112

rex Iuppiter omnibus idem.

王ユピテルは(rex Iuppiter)すべての者にとって(omnibus)同じ(idem)(である)。

なぜ気になるかというと、これと酷似した表現が、ウェルギリウスの別の作品(『農耕詩』)にもあるからです。

Geo.3.244

amor omnibus idem.
愛は(amor)すべてのものにとって(omnibus)同じ(idem)(である)。

『アエネーイス』では、「ユピテルは公平で、トロイア人もイタリア人も分け隔てしない」という文脈であらわれます。ここでユピテルは、運命(ユピテルの言ったこと、すなわちfatum)と言いかえてもいいでしょう。運命は公平だ、と。

一方、『農耕詩』では、「愛(欲)を遠ざけたり、逆らうことは、どんな動物にもできない」という箇所です。これはまた別の作品(『牧歌』10.69)での「愛(欲)はすべてを打ち負かす(Omnia vincit Amor)」を連想させます。

これを踏まえると、上記のくだりは、人間であれ神々(ユーノーやウェヌス)であれ、「運命に逆らうことなどできない」(愛に逆らえないのと同様に)とも読めます。

(その2)へ続きます。