西洋古典を読む(2022/6/29)

福西です。

ウェルギリウス『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)を読んでいます。

9巻の450-524行目を読みました。

ニーススとエウリュアルスの生首を高く掲げた槍が、トロイア人の城塞の前に現れます。さらし首というものです。

ルトゥリー側も、二人の首をさらしたところで、二人に殺された犠牲者が生き返るわけではありません。「空しい」ことは承知の上です。

さて、それを見たエウリュアルスの母が、城壁の上からさけびます。

「わたしを刺し貫け(figite me)。親を思う心があるなら、わたし目がけて槍のすべてを投げつけよ、ルトゥリ人よ。わたしから真っ先に剣で滅ぼせ」

と。錯乱する母は、イリオネウスたち将領に抱えられて、退場させられます。

ウェルギリウスは、母の悲しみの余韻にひたることを読者に許しません。

突然、ラッパ(tuba)が鳴ります。

すると男たちは、さっきまでの出来事がまるでなかったかのように、戦闘を始めます。

母の声という不協和音がかき消されたことが、いっそう哀れを催します。