山びこ通信2021年度号(2022年2月発行)より下記の記事を転載致します。

『フランス語講読』A・B

担当 渡辺 洋平

 フランス語講読の授業は、今年からzoomによるオンラインでの開講となり、新たな受講生とともに再出発しました。最初のガイダンスでのやりとりを元に、Aクラスではアンリ・ベルクソンの論文講演集『思考と動き(La pensée et le mouvant)』(1934)から「可能的なものと実在的なもの(Le possible et le réel)」を、Bクラスではロマン・プエルトラスの『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅(L’extraordinaire voyage du fakir qui était resté coincé dans une armoire Ikea)』(2013)とフランソワ・ミッテランの書簡集『アンヌへの手紙(Lettres à Anne)』(2016)をテクストとしました。

Aクラスで読んだ「可能的なものと実在的なもの」は原書で20ページ弱とベルクソンの文章の中でも短く、そのせいもあってか特に終盤はやや抽象的な印象でしたが、順調に読み進めることができ、すでに読了しました。短いながらもベルクソンの思想的な特徴は垣間見ることができたのではないかと思っています。フランス語の難易度としても簡単というわけではありませんが、極度に難解という箇所もないので、まずは良い選択だったのではないかと思っています。冬学期からは、ジャン=ポール・サルトルの『実存主義はヒューマニズムである』(1946)を読む予定です。本書はサルトルの著作の中でもっとも広く読まれたと言われており、良くも悪くもサルトルの一般的なイメージを形成した講演録です。「実存は本質に先立つ」といった私自身も高校時代の倫理で教わったようなフレーズがでているのも本書です。
ちなみに、秋学期の最後の2回ほど、マルセル・プルーストの『サント・ブーヴに反論する』という草稿を読んだのですが、こちらもなかなかおもしろく、サルトルが終わったらこちらを読んでみようかと思案しているところです。

Bクラスの『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅』はフランスの人気小説で、日本も含めすでに世界中で翻訳がなされており、2018年には映画も制作されています。軽快なトーンで物語がすすんで行くので、文章としての難易度は高くありませんが、地の文に登場人物のセリフや思考が埋め込まれるという、いわゆる「自由間接話法」が多用されており、そこに慣れるのに少しコツがいるといった感じでしょうか。また著者のユーモアを感じとるにもフランス語への慣れが必要かもしれません。
一方の『アンヌへの手紙』は、フランスの第21代大統領フランソワ・ミッテランが恋人(不倫相手)へ宛てた膨大な手紙です。愛にあふれるとともに非常に教養豊かな文章で、家族も仕事もあるはずなのに一体いつこんなに手紙を書いていたのだろうかと思ってしまいますが、ミッテランという人物の大きさを感じられます。文章も流麗で美文だと思います。その一方で、やはり元はプライベートな手紙なので、他人が読んでも何の話をしているのかが分からない箇所もあり、きちんと読もうとするとなかなか大変です。大統領の不倫というある意味ではスキャンダラスな出来事にも寛容なフランスの国民性は、年々狭量になっているように感じられる日本国民も見習ってほしいものです。

さて、冬学期以降、Aクラスは上述のようにサルトルを読む予定ですが、Bクラスの方は受講生の仕事の都合で一旦お休みとなります。これまでのテクストで再開するのか、あるいは新しいテキストで新たに開講するのかはこの原稿を書いている時点では決まっていません。少しでも興味がおありの方は、まずはご気軽にお問い合わせいただければと思います。個人的には少し古めの文学作品(ユゴー、スタンダール、ゾラなど)か、あるいはルソーなどを読んでみようかという気持ちもありますが、もし何か読んでみたいテクストがあれば、そちらで開講するということも可能かと思います。

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