『トムは真夜中の庭で』を読む(西洋の児童文学を読むB、2021/10/8)

『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス、高杉一郎訳、岩波書店)を読んでいます。

「8 いとこたち」を読みました。

ようやく、ハティが登場しました。

トムは庭園で遊ぶ子供たちを観察します。ヒューバート、ジェームズ、エドガーの三人兄弟。そして、彼らのいとこのハティ。

製粉工場にネズミ退治に行こうとする三人に、ハティがついていこうとします。しかし、エドガーに邪険にされ、泣かされます。

そのあとも、ハティは三人を追いかけ、いつしか鬼ごっこになります。ハティはいつでも追いかける役です。

「たまには逃げる役になったらいいのに」と園丁が声をかけてくれます。

ハティの顔があかるくなった。

「もしそうしてくれるんだったら、わたし一度かくれてしまいさえすれば、あとはかんたんにみつからないわ」(…)

「わたしが庭園のなかにいるなんて、だれも気がつかないくらいしずかにしていられるわ」

ハティは鼻をたかくして、園丁のまえをつまさきではねまわった。

かくれることを自慢するハティのセリフは、まるで「わたしはだれにも気づいてもらえない存在なのよ」と言っているかのようで、胸が痛くなります。

ハティは両親が死んで、屋敷に引き取られていますが、その屋敷の人たちからは必要最低限にしか気にかけてもらえず、いわば一人ぼっちの幽霊のような存在なのです。

その様子を、(幽霊のように姿の見えない)トムが見ているのでした。