高校「数の世界」(クラス便り2006.11)

山びこ通信2006年11月号より転載します。

高校「数の世界」  担当 福西亮馬

このクラスには、高校2年生1人と、高校3年生1人に来てもらっています。二人とも数学を学ぼうとする姿勢には「兄たり難く弟たり難し」の言葉が当てはまるようで、教える側としては授業できることを本当に嬉しく思っています。

秋学期、2年生の生徒とは主にベクトルの内積について学習しました。これは大学に進んでから実感することなのかもしれませんが、内積は理工系のさまざまな分野で登場する重要な概念です。逆にこれをおさえると、全体を見渡す視野を得ることができるとも言えます。それなので、単に計算規則として教えられるだけでは、なかなか意味の見えてこない内積について、少しでもイメージを深めてもらおうと思い、直交射影や最小二乗誤差、シュミットの直交化法について話すこともありました。

その直交化法で、実際手を動かして計算してもらっている時ですが、生徒の方から「これが修正項となるのですか?」という言葉が出てきて、「だんだん分かってきました。これがv1と直交するための修正項で、これがv2と直交するための修正項なのですね」と、式の意味を、ベクトルが次々と正規直交化されていくことのイメージを掴んでくれたことに正直感心しました。その頭の中で響いたことは、またいつか忘れてしまうかもしれませんが、「これがあれなのか」と大学の講義で出てきた時にはより血の通ったものとして学んでもらえるだろうと考えています。

内積はまたベクトルだけでなく関数の世界でも登場し、関数の内積といえば積分の意味で与えられます。その時、積分が得意かどうか問われます。またそこで、どうしてベクトルで考えていたもの(内積)が、関数でも考えられるのかといった点に、「数学って何でもありなの?」と戸惑いを覚えることもありますが、高校でしっかりとやった人にとってはむしろそれこそが必然の出会いであり、大学ではじめて「数学ってこんなにも柔軟性に富んだものなのか!」と驚くことになるのだろうと思います。そのために今勉強していると言っても過言ではありません。なんとなれば数学は一つなので、「ベクトルは得意だけれど積分は…」といった好き嫌いをなるべくせず(好きではなくても嫌いではないようにしておくことが大事です)、それぞれが一つにつながった時にその醍醐味を味わえるために、大事に履修しておいて欲しいと思います。

3年生の生徒とは、今は目標である大学の過去問題をしています。彼は整数分野を得意としているのですが、他に確率にせよ、微積分にせよ、ジャンルを問わずに解答しているところを見ると、彼にとって数学の内容はどれも関心事なのだということが分かって頼もしく思います。秋学期最初の授業でも、部屋に入って来るなり「行列って面白いですね」と、学校で習ったばかりのことの嬉しさを述べた後に、自分で作った固有値を求める公式をプリントの裏に書き出してくれました。それはすごいと感想を述べると、次の週はまた「行列のn乗を求める公式を作ってきました」と見せてくれ、また次の週には、「E+A+A2+A3…An=0となるようなA」を考えてきて黒板で説明してくれたり、単に高校生をしているのではなくて、大学生でも通用するような高校生だと思いました。たずねてみると、「自分で作った公式なら、覚えるのは好きです」ということで、数学という無人島で、彼なら素手から道具を作りだして暮らせるのではないかとも思われました。

その彼が、あとの数ヶ月間を悔いのないように過ごし目標に向かってくれることを陰ながら応援しています。