『トムは真夜中の庭で』を読む(あらすじ紹介)その3

福西です。

(前回はこちら

庭園の外の川が氷結した時、トムはハティをスケートの旅に誘います。

凍った川は、「止った時間、行き来できるようになった時間」を読者に連想させます。

「ほら、トム。イーリーの大聖堂の塔が見えるわ!」

しかし、川から近づいていくと、イーリーの塔は、まるで旅びとと追いかけごっこでもしているみたいだった。塔が見えだしてから、ずいぶんながいことすべりつづけていっても、塔はなかなかふたりを近づけなかった。

庭園を出て、一日じゅうスケートで川を下った二人は、イーリーの大聖堂に着きます。沈む夕日を少しでも眺めようとして、二人は塔を上がります。

ここで物語は「塔にのぼる」という垂直構造を得ます。一方、川は「時間の流れ」という水平構造を示しています。

それはまるで言葉による建築物です。その構想力はフィリパ・ピアスの特徴だと思います。

二人は、二人の時間全体を鳥瞰するかのように、塔から川を見下ろします。

それから、ふたりはうしろをふりかえって、じぶんたちがカースルフォドからやってきた氷の道を眺めた。気が遠くなるような遠い道のりだった。

二人が同じ光景を確認したとき、塔の番人の声が響きます。

「時間です。」

と。

この日を境に、トムの時間とハティの時間はつながらなくなります。トムはハティの名を何度も呼び、泣き叫びますが、無駄でした。

トムは庭園から追い出されてしまったのです。

 

しかし、それはトムの方の時間での、新たなハッピーエンドのための布石なのでした。

大人になったハティは、トムのことを忘れていなかったのです。

 

一種のタイムファンタジーであるこの作品。「切ない」けれども「肯定して大人になっていく」、そのような物語です。

ぜひ、読む仲間をお待ちしています。