山びこ通信2020年度号(2021年3月発行)より下記の記事を転載致します。

『現代社会を考える(MMTを理解する)』 『経済』

担当 谷田利文

 春学期から始まった「現代社会を考える(MMTを理解する)」では、参院選で話題になり、コロナ禍の中で、再び関心が高まっているMMT(現代貨幣理論)を理解することを目標としています。MMTについては、その賛否をめぐって激しい議論がなされていますが、この講座ではどちらかの立場に立つのではなく、まずは理解を深め、自分で判断するための材料を集めていこうと思っています。

 そのため、まずは井上智洋『MMT 現代貨幣理論とは何か』(講談社選書メチエ、2019年)と藤井聡『MMTによる令和「新」経済論 現代貨幣理論の真実』(晶文社、2019年)等の解説本から始め、次にMMTの提唱者の一人であるL・ランダル・レイの『MMT現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社、2019年)を読みました。

 MMTについては、政府がいくらでも借金できるというトンデモ理論だという批判がしばしばなされますが、インフレ率が2%を超えないようにするという基準が明示されており、またデフレが続く日本においてこそ、インフレに注意しながらも、積極的な財政政策を行う余地が大きいと思われます。以上のようなMMTの有用性について評価しながらクラスでは自由な議論を行いました。例えば、貨幣の起源を金属貨幣ではなく、割符などの貸し借りの記録だとする点に対し、歴史的には両者が存在していたのであり、どちらかを起源としたり本質だとする意味はあるのかという意見が出ました。レイは貨幣が使われる根拠を、租税の支払に使えるからだと論じているのですが、前提となっている租税を課す国家の存在が気になります。歴史学では、強力な中央集権的な国家の存在が疑われ、地方分権的な実像が示されたり、国家の枠組を超えた商業のネットワークが着目されていますので、歴史的な説得性には疑問が残ります。また、MMTの政策の一つである、完全雇用のための就業保証プログラムについて、失業率よりも非正規労働が問題となっている日本には合わないのではという意見も出ました。

 その後、このクラスは「経済」に名前を変え、広く経済に関する本を、要望をもとに選んで読んでいます。まず、諸富徹『ヒューマニティーズ 経済学』(岩波書店、2009年)を読み、現在は、I・ウォーラーステイン、川北稔訳『近代世界システムIー農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立』(名古屋大学出版会、2013年)を読んでいます。最近では、高校世界史の教科書にも出てくるようですが、中高生には、読みやすく知的な面白さが味わえる川北稔『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書、1996年)をおすすめします。

 冬学期からはMMTについて新たなクラスが始まり、『MMT現代貨幣理論入門』を毎回1章ずつ読んでいます。仕事をされている中で、社会への疑問・関心が湧き、改めて経済学等を学ぶことで、自分を変えたいという、学ぶ意義についてお聞きしたり、銀行で働かれている方に、MMTの議論で重要な銀行における信用創造や、準備預金についてお聞きしたりと、議論が盛り上がっています。

 社会に出て働く中で改めて学ぶ必要性や、学びたいという欲求を感じた方が集い、その思いを共有したり、議論の中でお互いに新たな発想の種を見つけられるような場にできればと思っています。

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