『東洋古典を読む』(中高生)クラス便り(2021年3月)

山びこ通信2020年度号(2021年3月発行)より下記の記事を転載致します。

『東洋古典を読む』

担当 陳 佑真

 現在、「東洋古典を読む」では、中学生の方一名と一緒に『三国演義』を読んでおります。

『三国演義』は中国・明の時代の羅貫中という謎の多い人物がまとめ上げたとされ、そのスリルあふれる描写で、王侯貴族から庶民まで、多くの人々を熱狂させてきました。日本でも昔から色々なエディションで読み継がれてきた物語ですが、このクラスでは、小川環樹氏・金田純一郎氏の格調高い訳文を楽しむことのできる岩波文庫版を使っております。

この書物は滅亡間近の漢王朝を再び立て直そうとする劉備、新しい王朝を作ろうとする曹操・孫権といった英雄たちの戦いを描いた名作ですが、実はその中には、中国の古典的な思想を基礎とした表現が多数現れます。

その一つが、万物は木・火・土・金・水の五つのエレメントから構成されている、とする中国の伝統的な五行思想です。たとえば、本書冒頭には、「漢朝は、高祖が白蛇を切りすてて旗を揚げたのに始まり、ついに天下を一統した」(6頁)という描写があるのですが、これは、火は金属を溶かすから金に打ち勝つ、という考えをベースにしています。火属性の高祖劉邦が、金属性の秦王朝を倒して新しい王朝を作る、ということを神秘化した表現なのです(白は金属性を象徴する色)。

また、黄巾の乱の参加者が黄色のバンダナを巻いているのも、火が燃え尽きれば灰(土)が残る、という考えから、火属性の漢王朝が燃え尽きた後は自分たちの時代なんだ、という意味が込められています(黄は土属性を象徴する色)。

こういった、知った上で読むと『三国演義』がもっと面白くなるお話の紹介も交え、受講される方の好奇心を膨らませることを目指して授業をしております。

難しい言葉の読み方や意味の取り方も学びつつ、この時なぜこの人物はこんなことをしたのか、毎回楽しくわいわい話しています。

魅力あふれる『三国演義』の世界、一緒にのぞいてみませんか。