本日はシェイクスピア『ソネット詩集』(大場健治編訳、研究社)を読む体験講座がありました。受講していただきありがとうございます。

今回はまず南仏プロヴァンスの詩人トゥルバドゥールの宮廷風恋愛についての話から始め、ソネットを生んだシチリア派、イタリア=ルネサンスの二大詩人のダンテとペトラルカを経て、ソネットがイギリスに輸入されるまでのこの詩形の足跡をたどりました。

その後、シェイクスピアのソネット1番 ‘From forest creatures we desire increase’ を読み、鑑賞しました。この美少年に結婚を勧めるソネットは、その最初の四行連句がとりわけ美しと思います。ちょっとだけその話をしてみましょう。

From forest creatures we desire increase,

That thereby beauty’s rose might never die,

But as the riper should by time decease,

His tender heir might bear his memory. (1-4)

取り分けて美しいものには跡継ぎが望まれるものだよ、

後を継ぐものがあれば薔薇の美は死に絶えることがない、

それは確かに萎えてしおれて地に落ちるのが時の定めだとしても、

若い新芽が萌いでれば面影はしかとこの世に留められるだろうさ。(大場訳)

まず、この四行連句は<弱い音>の後に<強い音>を繰り返すリズムで書かれているので、全体がメトロノームのように時間の流れを告げています。その悠然とした時間の流れの中で、「美しいものは・・・萎えてしおれて地に落ちる」のですが、美は跡継ぎが生まれることで死を超越すると詩人は言います。ここで各行末を見てください。じつに「跡継ぎ」(increase)と「面影」(memory)とが、「死に絶える」(die)ことと「萎えてしおれて地に落ちる」(decease)こととをはさみ撃ちにしていますね。美しいものは結婚して跡継ぎを作ることで、避けえぬ死に勝利して永遠になる。このことが視覚的にも示されているのです。

さらに、4行目をみてください。’His tender heir might bear his memory’ とあります。 このイタリックで示したところには、すべてアクセントが落ちるのですが、ここに /ɛ/ の音が共通しているのがわかりますか。つまり「若い新芽」(tender heir)が「面影」(memory)を「この世に留め」(bear)る、ということが強調されているのです。もちろん美少年の子供とはいえ、残酷なことにその子もまた美少年、あるいは美少女になるとは限らないということを、私たちの多くはかさねがさね承知しているでしょう。それでもこの詩を読むと、なぜだかこの語り手の言うことに納得させられずにはいられません。それは上で見てきたように、この詩が読み手の視覚、あるいは聴覚に訴えてくる形式的特徴が、まさにその内容を表現しているからでしょう。ひょっとすると、形式が内容そのものになっているとも言えるかもしれません。何れにせよ、これこそが詩という言語芸術の持つ力なのだと思います。

さて、今後も講座が終わった後に、こういった美味しいところを紹介できればと思います。(坂本)

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