西洋古典を読む(2019/9/4)

福西です。秋学期からもよろしくお願いいたします。

ウェルギリウス『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)を読んでいます。

第2巻の108~144行目を読みました。

シノーンの語りが終わります。

「もし人間のあいだにいまなお残る穢れなき信義があれば、これにかけて願います。憐れんでください、かくも大きな苦難を。不当な仕打ちに耐える心を憐れんでください」

シノーンがウリクセース(オデュッセウス)にひどい目に遭わされ、人身御供にされたことが語られます。もしそれが真実であるなら、シノーンは同情すべき人物です。しかしその話自体がウリクセースの手による、木馬の計略の一部。トロイア戦争の不幸は、まだ終わっていないのでした。

 

後半は、受講生のA君が夏休みに読んだ本のことを話してくれました。とくに『ドン・キホーテ』と『ギリシャ神話』のことを話してくれました。

『ドン・キホーテ』は「同じ主人公の読み切り連載のコメディ」として読むと面白いとのこと。「重版で昔の訳なのですが、すらすら頭に入ってきます」とのことでした。私はてっきり敷居の高いものだとばかり思っていたので、そうではないと教わり、読んでみたいなと思いました。A君が以前、『オデュッセイア』を「喜劇として読むと面白い」と言っていたを思い出しました。

『シャルルマーニュ伝説』(『ロランの歌』など)についても、「1回目はまじめに読みますが、2回3回読んでいると、突っ込みをいれながら読めるようになります。またそのとき、伏線を探すのが楽しいです」と話してくれました。

A君は、『ギリシャ神話』を読んで、英雄たちの年齢に疑問を持っていました。「オデュッセウスの母と、『アルゴナウタイ』のイアーソーンの母とが姉妹なので、オデュッセウスとイアーソーンはいとこになる。ということは、トロイア戦争の時点でオデュッセウスはかなりの年長ということになる」。また、「テラモーンがヘーラクレースとともにトロイアを攻略したとき、プリアモスはまだ赤ん坊だった。トロイア戦争の大ダイアースはテラモーンの「子」。かつプリアモスは「老王」。とすると、大アイアースはプリアモスと同じく老人?」など。

『アーサー王伝説』でさまざまな登場人物の年齢を推定したことのあるA君ならではの興味だと思い、興味深く話を伺いました。

また、A君はギリシャ神話が哲学でモデルに使われていることにも興味が出てきており、その裾野について話し合いました。

その他、本やウェブ上のギリシャ神話の文章が、「諸説あるうちのどれを採用しているのか」を知るのが面白いとのことでした。「ああ、この書き手はAとBある解釈のうちのAを採用しているんだな」といった読み方をしているそうです。

ギリシャ神話についてはもはや私よりもA君の方が詳しいです。素晴らしいです。

 

【追伸】

カッサンドラーがなぜ誰からも信用されなくなったのか、その事の次第をA君に教えてもらいました。

カッサンドラーはアポッローンと相思相愛で、予言の力を授かった。けれども「アポッローンがいつか自分のことを嫌いになるのではないか」と思い、予言の力を自分に使ってしまった。すると、アポッローンが自分を捨てる未来が見えてしまった。カッサンドラーは、その未来を回避しようとして、アポッローンの求愛を拒んだ。そのために、アポッローンが怒り、カッサンドラーの予言の力を「誰からも信じられなくなる」ようにした。ここに予言が成就してしまった。

と。「予言の力を自分に使ってしまった」ことが原因で「未来を回避しようとし」、そのために「成就した」ということでした。A君、ありがとうございます!