「無限論の教室」を読む(2019/6/20)

福西です。

『無限論の教室』(野矢茂樹、講談社現代新書)を読んでいます。

「第九週」の前半(p142~149)を読みました。

ラッセルのパラドクスが登場しました。

それに付随して、「集合の集合」が作り出す矛盾の例を、5つ紹介しました。

 

1 図書館目録のパラドクス

この図書館には、自分のことを引用していない本(たとえば作者名や題名がその本の中に書かれていない本)が、全国各地からすべて集められている。そしてそれ以外は置いていない。この図書館には目録がある。さて、この目録にはその目録自体を載せられるか?

なおこの目録とは、その図書館にある本の題名をすべて記した本のことである。

目録も図書館の一冊なので、名前を載せる必要があります。けれどもそうすると、この図書館に置くことができなくなります。

一方、目録から目録の名前を消すと、今度は目録が「自分のことについて書かれていない本」になります。よって、この図書館に置かなくてはなりません。(そうした本は「すべて」とあるので)

目録は、図書館を行ったり来たりすることになります。これは矛盾です。

 

2 床屋のパラドクス

ある村の床屋は一人で、自分でひげをそらない村人のひげをすべてそり、自分でひげをそる村人のひげはそらない。

その床屋は、自分のひげをそるか?

床屋が自分のひげをそろうとすると、自分自身が「自分でひげをそる村人」になり、そることができません。しかしそらないと、今度は「自分でひげをそらない村人」になり、そらなくてはなりません。

床屋の手がプルプルしている様子が目に浮かびます(笑)

 

3 市長のパラドクス

自分が市長をしている市に住んでいない市長を世界中から集めて、A市を作る。A市には、前述の市長のみが住み、しかも一人残らず住む。

A市についての市長はA市に住めるか?

A市の市長は、A市の外に住まなくてはなりません。けれどもA市を出ると、「自分が市長をしている市に住んでいない市長」になり、またA市に呼び出されます(「すべて」とあるので)。で、A市から追い出されます。これの繰り返し。矛盾です。

 

4 1の変形(自分自身を含む場合)

ある図書館には、そこにある本の内容がすべて書き込まれた本Xがある。

そんなことは可能か?

Xに、まずその図書館にある本(仮にA、Bの2冊)の内容が書き込まれる。

つまり、{A、B}である。

つぎに、X自身も図書館の一冊なので、それも書き込まなくてはならない。

つまり、{A、B、X}である。

これは、{A、B、A、B}のこと。

さて、この内容こそが、Xであるなら、さっき書いたのではなくて、こちらをXには書き込まなくてはならない。

つまり、

{A、B、A、B、X}

={A、B、A、B、{A、B、A、B、X}}

=……

となり、永久に書き終わらない。

 

5 犬そのもの(テキストにある例)

Xは「犬ではないものすべて」の集まりである。

この「犬ではないものすべての集まり」もまた、1つの「犬ではないもの」である。

とすると、Xにどんなことが起こるか?

X={猫の集合、食器の集合…、X}

X={猫の集合、食器の集合…、{猫の集合、食器の集合…、X}}

X={猫の集合、食器の集合…、猫の集合、食器の集合…、{猫の集合、食器の集合…、{猫の集合、食器の集合…、X}}

となり、無限増殖する。

 

受講生も、「なんでラッセルはこんな変なことを考えたんだろう?」と言いつつも、それぞれのパラドックスに興味を抱いてくれたようでした。

 

ラッセルの話をまとめると、次のようになります。(上の例では1~3)

「自分自身を要素として持たない集合の集合」を、ラッセル集合と定義する。(1)

ここで、Xを登場させます。Xはまだ正体不明です。

そして(1)から、

「Xは、ラッセル集合の要素である」⇔「Xは、Xの要素ではない」(2)

と書けます。

【補足】

AならばBを、A→B

BならばAを、A←B

と書き、その両方を満たすなら、

AとBは同値(同じ内容)で、

A⇔B

と書きます。

さて、Xの正体を実は「ラッセル集合」だとします。

つまり、

(2)で、X=「ラッセル集合」(という言葉)を代入します。

すると…

は、ラッセル集合の要素である」⇔「は、の要素ではない」

ラッセル集合は、ラッセル集合の要素である」⇔「ラッセル集合は、ラッセル集合要素ではない

はい。

このように、最後の文章で矛盾が生じました。

ラッセル集合は、AでありAでないと言っているからです。

 

次回は、「第九週」の続きを読みます。