「山びこ通信」2018年度号より下記の記事を転載致します。

『れきし』

担当 吉川弘晃

このクラスは主に小学生高学年から中学生を対象とし、日本の歴史を扱っています。とはいえ、教科書に出てくる人名や出来事の名前を覚えてお終いではありません。このクラスは、書物と向き合って「自分の眼で事実を確かめ、自分の頭でそれらを組み合わせる」楽しさを味わえるようになることを目的にしています。

そもそも、このクラスは、2016年春学期、歴史を愛する生徒さんたちの強い希望によって誕生しました。彼ら、彼女らは小学生とはいえ、既に一通りの学校教科書の知識を備えていました。開口一番、私は「なぜ、桶狭間の戦いといった過去の事件を私たちは知っているのか」と皆に問うたように記憶しています。当時の人々の働きをめいめいの立場から記した数々の歴史書、これこそが遠く離れた過去と現在を繋ぐ糸。そこには正しいことも書いてあれば、嘘や誤りも含まれています。そうした糸を一本一本、手繰り寄せることで、過去の事実を(時には本だけでなく遺物や伝承をも頼りつつ)99パーセントに到るまで確かなものにしていく。その積み重ねが私たちの手元にある教科書の記述を作っているのです。

私がここで言いたかったのは、本に書かれた情報でも疑ってみて、それは何に由来するものか考えてほしいということでした。勿論、博物館の蔵から逐一、巻物を取り出して自分で読むのは現実上、難しいでしょう。けれども、そうした考え方に慣れると、過去の事実をいろんな面から見てやろうという姿勢が生まれます。すると、同じ出来事でも様々な?が頭に浮かんでくるでしょう。「戦いはいつ、どこで生じたか?」「なぜ織田方は勝利したのか?」「この事件は誰にとって、どのように重要なのか?」…。誰もがうなずく答えよりも、自分だけの問いを作る。これこそが歴史を学ぶ楽しさではないでしょうか。そんな思いを込めて、このクラスでは、生徒さんの疑問を大事にしています。

江戸時代末期から明治時代初期にかけての時代を扱う今学期は、三谷博・並木頼寿・月脚達彦編『大人のための近現代史 19世紀編』(東京大学出版会、2009年)を教科書にしています。授業では本書を音読した後、一つ一つの事項をみんなで確認し(難しい箇所は講師が解説)、さらに問題を作って教室全体で議論を行っています。本書の難しさでもあり面白さでもあるのは、日本史を内側と外側の両方から考える方法を取っている点です。朝鮮・清・琉球・オランダなどで構成されていた東アジアの国際社会には、19世紀になるとイギリスやフランス、ロシア、そして合衆国が参入します。東アジアとヨーロッパ、国と国の付き合い方が大きく異なる二つの世界が出会うことで、日本はどのように変わったのか(もしくは変わらなかったのか)。ここでの学びが普段、当たり前に考えている「日本」や「アジア」を改めて、歴史的観点から考え直すきっかけになればと思います。

 

 

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