「ラテン語初級講読B」のクラス便り(2010.6)

春学期のクラスだよりを「山びこ通信」2010.6月号より転載します。

今学期の『ラテン語初級講読』B クラスでは、前学期に引き続きキケローの『友情について』を読み進めています。受講生はクラス開設以来継続受講されているお二方です。なお講師は前学期まで担当された前川先生から山下大吾に交代いたしました。前川先生が採用された一回につき10 数行というペースを踏襲し、テクスト朗読の後訳読というスタイルで、キケローの記したラテン語を一語一語読み進めております。邦訳も参照しておりますが、訳読の際は可能な限り、ご自分の力でラテン語から訳された言葉を基に表現されるようお願いしております。

今学期の範囲では、ラエリウスの口を通して語る小スキーピオーの言葉というテクストが多く、その性格上いわゆる間接話法の文章が多くなり、お二方共にこの点で苦労されていた由見受けられました。そのほかにも結果を表すut の用法や述語として用いられる属格など、これまであまり馴染まれていなかった文法事項が現れたため少しばかり当惑されたようです。

それでもラテン語を丹念に読まれている様は十分窺えます。ある日の授業では邦訳の底本とは異なったテクストを読むことになりましたが、その際直ちに、我々のテクストを基にした訳と邦訳との差異が指摘されるほどの精読が行われています。

キケローはこの対話編を記した翌年、政敵アントーニウスの差し向けた刺客によって殺害される運命にあります。死の前年、様々な政争に巻き込まれ、明日をも知れぬ異常な緊張状態の中で、「生涯の終わりの日まで友情が持続するほど困難なことはない」という言葉を記さざるを得なかったキケローは、深い諦念に囚われていたのでしょうか。それともその言葉を小スキーピオーの説としてラエリウスに語らせ、その諦念を自らに納得させようとしていたのでしょうか。

その紙背からは、この対話編を捧げた莫逆の友アッティクスの姿が浮かび上がり、生涯続いた彼との友情に対する特別な思いが垣間見られます。(文責山下大吾)