ラテン語初級文法(クラスだより2010.2)

山びこ通信(2010.2)より講師のメッセージを転載します。

『ラテン語初級文法』B クラスでは、従来と同じく、一学期三ヶ月間で基礎的なラテン語文法をマスターするカリキュラムを組んでおります。教材として田中利光著『ラテン語初歩改訂版』(岩波書店)を用い、必要に応じて他の文法書などから補足して進めています。各課に挙げられた文法事項を確認後、練習問題のラテン語を日本語に訳していただく流れになっております。和文羅訳問題は時間の関係上授業内では行わず、その日進んだ分の試訳をお渡しして、翌週以降ご質問をお受けしています。今学期の受講生はお二人で、その内お一人は植物名などの学名からラテン語に興味を持たれた由、ラテン語の間口の広さを再確認しつつ、毎週ゆっくり急ぎながら、楽しくかつ真剣に授業を行っております。

各課ごとに覚えるべき文法事項があり、進むにつれ文法表を確認する手間も煩雑になっていくことから、お二人ともに口を揃えて覚えるのが大変だとの感想を述べられています。確かにその通りで、この始めの努力を怠ってしまうと、ラテン語は中々我々にその果実を与えようとしてくれません。しかし一度覚えてしまえば、一語一語はっきりとその表情を見分けられるようになりますので、語順の妙も含め、安心して味読できるようになるはずです。今のところほとんど見慣れない、新しい形態が表で並んでいるため大変かもしれませんが、進むにつれ名詞や動詞の変化に一定の似た傾向が感じ取られるようになるはずですので、なるたけ早くその段階に達していただければ、またその流れを感得していただけるようなアドバイスが出来ればと思いつつ試行錯誤しております。

そんななかある日の授業で、「このhostis という語は敵という意味ですが、反対の意味ですけどホステスと何か関係があるのでしょうか」とのご質問をお受けしました。見かけ上意味が反転してしまった興味深い語源話はさておき、この現象について「ゲストは客だが、ホステスは主婦の敵というのは蛇足であろう」と評された某先生の姿が懐かしく、かつありがたく思い起こされ、後日そのプリントをお渡しして責めを塞ぐこととなりました。その日の授業で次のオウィディウスの引用句を読むことになりましたが、やはり、あまりに出来すぎでしょうか。

Fas est et ab hoste doceri. 敵からも教わるべきである。(オウィディウス『変身物語』4.428)

(山下大吾)