「山びこ通信」2017年度秋学期号より下記の記事を転載致します。

『かいが』A・B

担当 梁川 健哲

 6月に、「一個の林檎を屋外の何処かに置いて描く」という課題を実施しました(A・B両クラス)。林檎を「役者」とするなら、「どのように演出し、場面を作るか」がこの課題の鍵です。
この流れを活かしつつ、「構図」や「視点」を探る面白さをさらに感じてもらうため、9月には「カメラ」を用いた課題を取り入れました(Bクラス)。前回の林檎に加え、蜜柑、茄子、パプリカ、かぼちゃなども用意し、それらをあちらこちらに連れて行っては自由に配役し、色々な角度から場面を切り取ります。インスタントカメラが27枚撮りなので、「27枚の『いい画』づくりをしよう!」が合言葉です。
園庭の遊具に登らせてみたり、ベンチに腰掛けさせたり、芝生の丘をころがしてみたり。「先生、あと何枚撮れる?」としきりに残りのシャッター数を気にしながら、また、友達と相談したり協力し合ったりしながら、慎重に場面づくりが続きました。
このクラス便りが発行される頃には、皆さんと出来上がった写真を広げ、様々な意見を交していることでしょう。「写真に出来ること(写真にしかできないこと)」「絵画に出来ること(絵画にしか出来ないこと)」についても考えるきっかけとなり、何かを発見をしてくれることを期待しています。

上記と本質的に繋がりますが、卓上に並べておいた小物を構成して画作りをする、いわゆる「静物画」の切り口でクラスを始めた日もありました(Aクラス)。
Madokaちゃんは、幾つかのロウソク、アヒルの置物、ブリキのジョウロを選びました。「よ〜し、いいこと考えたぞ〜!」と呟くときの彼女はいい表情をしています。そして何か考えがあって、アヒルを部屋の暗い場所へ持って行って「うん」と頷き、どんな色に見えるかを確かめ、ロウソクに灯った炎にはどのような色のパステルが似合うかなど、自発的に実験をしながら絵をつくっていきます。(火は実際に灯しませんでした。部屋を暗くし、火が灯った様子を観察したいか訊ねましたが、彼女は静かに首を横に振りました。)この時点で既に有り体な「静物画」の手法からは離れていますが、私は嬉しい気持ちで静かに見守っていました。

「先生、これ塗ってみたい…」一方のMasatou君が思いついたことは、予期せぬことでした。モチーフとして置いておいたブリキのトラック「そのものに」色を塗ってみたいというのです。意表を突かれた私は当然、絵の中でトラックは思い通りの色にすることが出来ることや、どうしても立体にこだわるのであれば、ダンボール等でトラックを作ってから着彩してもよいことを伝えました。
しかし、じっとトラックから目を逸らさない彼の気持ちが切実であることを悟り、葛藤の末に「それじゃあ、塗ってみようか」と声をかけました。不思議と私自身、どんな風になるのか、好奇心を抱きはじめていることに気が付きました。

 赤と青に塗り終えたトラックを眺める彼は、笑顔とは違う「なるほど、こうなるのか」と納得するような表情を浮かべていました。次に、水バケツの中で色が混ざり合う不思議さを見出した彼は、水彩紙に赤と青を用いて絵を描き始めました。「こういう風にしてみたよ」と今度ははにかみながら差し出したその絵は、「青と赤を交互に並べたもの」「赤(青)の上に青(赤)をのせたもの」「赤一色」の3つ。混色における大変示唆に富んだ実験をしてくれたと思います。

「課題」と言うとき、「限られた条件・制約の中で何が出来るのか」が重要なことは言うまでもありませんが、一方では「こちらで想定した課題」というのは、それだけでは常に不完全なものなのであって、子どもたちと心のやりとりしながら柔軟に課題そのものをアレンジし、「その子にとって、今、適切な課題」へと一緒に作り上げていくことも重要不可欠であると改めて実感しています。

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