西洋古典を読む(2017/11/8)

福西です。

セネカ『人生の短さについて』を読んでいます。先週とこの日で、15章を読みました。

両親について自分で選ぶことはできないが、本について自分で選ぶことはできる。それを読むことで、ソクラテスでもアリストテレスでもエピクロスでも、どんな賢人たちの子供にでもなることができる。そして本の中の彼らは、生身の人間とは違って、決してこちらの訪問を拒むことがない。「今、ちょっと忙しいから」と嫌がられることもない。本を開けば、いつでもそこにいて、訪問者がまた来たいと思うような満足を与えてくれ、おみやげ(見識)さえ持って帰らせてくれる。といった趣旨のことが書かれています。そして、過去の知とつながることで、過去の賢人たちの人生も得て、それだけ長生きできる、と。よく使われる比ゆとして、巨人の肩に乗るようなものだと言えるでしょうか。

以下はそれに続く、15章後半部分の引用です。哲学の営みはいかなる時代にも滅びることはないと明言しています。短文で畳みかける力強い文体が目に飛び込みます。

no age will wipe them out, no age diminish them. (…)So the life of the philosopher extends widely: he is not confined by the same boundary as are others. He alone is free from the laws that limit the human race, and all ages serve him as though he were a god. Some time has passed: he grasps it in his recollection. Time is present: he uses it. Time is to come: he anticipates it. This combination of all times into one gives him a long life.
─”Seneca On the Shortness of Life“( C.D.N.Costa訳、Penguin Books)

原文では以下の通りです。

15-4 nulla abolebit aetas, nulla deminuet;(…)

15-5 Sapientis ergo multum patet uita; non idem illum qui ceteros terminus cludit; solus generis humani legibus soluitur; omnia illi saecula ut deo seruiunt. Transiit tempus aliquod? hoc recordatione comprendit; instat? hoc utitur; uenturum est? hoc praecipit. Longam illi uitam facit omnium temporum in unum collatio.

それに対する日本語訳です。

いかなる時代もそれを滅ぼさないであろうし、減らしもしないであろう。(15-3)…(中略)それゆえ賢者の生命は著しく伸長し、他の者たちを閉じ込めている限界も賢者を閉じ込めることはない。賢者のみが人類のもろもろの制度から解放されている。あらゆる世紀が、あたかも神に仕えるごとく賢者に仕える。時は過去になったか。賢者はこれを回想によって摑まえる。時は現在にあるのか。賢者はこれを活用する。時は未来にあるのか。賢者はこれを予知する。あらゆる時を一つに集めることによって、賢者の生命は永続せしめられる。(15-4)─セネカ『人生の短さについて』(茂手木元蔵訳、岩波文庫)

賢者は、過去だろうと現在だろうと未来だろうと、すべての時間をつかまえる手だてを持っている、というわけです。「もう」とか「あ」とか「まだ」とか言わないわけです。「しかし」と16章に続き、「人生を短い」と言う人は、過去を「忘れ」、現在を「無視し」、未来を「恐れる」のだと。

ここで、冒頭1.3にあった「人生は十分に長く、その全体が有効に費やされるならば、最も偉大なことをも完成できるほど豊富に与えられている。」(茂手木訳)を思い出します。15章はその時間の費やし方(アレンジの仕方)の具体例を記述している、とも読めるでしょう。

つまるところ、古典を紐解き(われわれよりもすぐれた人々の見識を身に修め)、知的活動を愛すること、それがセネカ流「長生きのすすめ」なのだろうと、私は受けとめました。

13章では、雑学に終始する知のありようを見てきましたが、14章からは打って変わって、本論に戻った感じがしました。

次回は16章からです。残す章もあと5つとなりました。じっくり味わいたいと思います。

(来週は生徒都合による休講で、次回は11/22です)

もし中高生の方で上記の内容に興味を持たれ、見学したい方がおられましたら、ぜひ。