『しぜん』(A・B1・C1・C2)クラス便り(2017年2月)

「山びこ通信」2017年度冬学期号より下記の記事を転載致します。

『しぜん』(A・B1・C1・C2)

担当 梁川 健哲

しぜんA
秋の終わり、ハロウィンの仮装をしようとみんなが提案してくれました。森で拾った木の葉や枝、その他の材料を用いて衣装や小道具を作り、魔女や妖精、オリジナルのキャラクターに扮して森の中へ出掛けました。
森の中での活動は、それだけでも非日常的な、特別な感じがしますが、何かに化けて戯れる私たちの中に、いつもとは異なる不思議な高揚感があることをはっきりと感じました。
「きれいな葉っぱ」や「かっこいい枝」を手にして心を躍らせることは、古来人間が畏敬なる自然の力を借りるべく、生活や儀式の中で様々な自然の装飾品を身に纏ってきたことと、ひと繋がりであるのかもしれません。「森の動物たちや妖怪たちが、どこかからこっそり見ていたかもしれないよ」辺りが夕闇に包まれる頃、みんなとそんな言葉を交わしながら、ふと考えたことです。

冬になった今、このクラスでは以前から話に持ち上がっていた「鳥の巣箱設置計画」を実施するところです。クラスには、野鳥や草花をはじめ、自然の生きものたちに並々ならぬ愛着を抱き、それらについて記した絵日記はこれまでの4年間で300枚を超えるAちゃんがいて、同い年のK君とともにクラスを引っ張ってくれています。クラス1年目の女の子たちも、少なからず感化されていることでしょう、「しぜん日記」をよく書いてきてくれます。様々な発見や学びの種がそこには詰まっていて、クラスの時間だけではとても拾いきれないくらいですが、それらを大切に共有しながら、これからの取り組みの中に生かして行きたいです。
 ◀ しぜん日記(部分)Aちゃんの例。
見て、感じ、考えたこと、調べたことが、時に詩や俳句を添えて、ありのままに記されています。

しぜんB1
「先生、今日も焚き火をしようよ」クラスに来たM君が言います。みんなも気持ちは同じです。冬学期はそんな風に、クラスの後半に焚き火を囲んで温まるのがいつもの過ごし方になっています。燃料は基本的に森で調達するのですが、これまでにクラスでは何度も「失敗」を経験しています。雨上がりで拾った木の枝が湿っていたり、集める量が少なくて全然火種が育たなかったり、マッチの火が幾度も空しく消えていったり。
そんな経験を経て、今では失敗することは殆ど無くなっています。最初に燃えやすい杉の葉っぱを沢山集めておくことや、次に燃えやすい細い枝をくべること、面倒を見ないと火は衰えてしまうことなど、体験的に理解が深まってきました。そうして苦労して辿り着いた焚き火。小さな火ですが、秋にはお芋を、年明けにはお餅をふっくら焼き上げて食べることができました。ある日、自分のマッチひと擦りで焚き火に成功した経験は、1年目のN君にとっても自信になったことでしょう。火の世話をしている時の微笑む表情がそれを物語っていました。
一方、このクラスでは「新しい」秘密基地づくりが始まっています。昨年度作ったものは人目につきやすかったので、今度は秘密度の高さを上げるのが目標です。
「あれ、鳥の巣かなぁ?」間伐された木の枝にある固まりを調べようと足を踏み入れた先に、よい場所を見つけました。秘密ですから詳細は言えませんが、みんなが「いいね」と口を揃えた決め手は「夕焼けが奇麗に見えそう」ということでした。
 別の日、山で採れた竹を運んで行き、鉈で二つに割って水平に並べ、ベンチにしました。スコップで地面をならしたり、そこに奇麗な落ち葉を並べたりして、みんな一生懸命自分自身や仲間の腰掛ける場所を作っています。
「よし、座ってみよう。」そう言って、「ふぅ〜」と息を吐いて、「初めて出来た場所」に腰掛け、茜がかってきた空を仰ぐみんなの後ろ姿が印象的でした。

しぜんC1
秋にFちゃん自らの発案で始めた家づくり。森で拾った木の枝や、段ボールを支持体にして、こつこつと作り続けてきました。天気のよい時は森に材料を探しに行ったり、雪の積もったある日は石段で雪かきをする私を見つけ「私もしたい!」と言ってひたすら雪かきをしたり、「寄り道」も沢山しました。
完成まであと一歩のところへ辿り着き、「いよいよ次回で完成だね!」と言って迎えた、2週間後のクラス。外は強い風が絶え間なく吹いていて、木がザワザワと音を立てています。教室を覗いたかと思うとすぐ、にこにこ笑いながら園庭へ駆け上がるFちゃん。私も後を追いかけます。

言葉にならない言葉を一緒に叫びながら、体全体で向かい風を受け続けたり、風に負けないくらいのスピードでジャングルグローブを代わる代わる回したりして、とにかく走りました。その間、二人ともずっと笑いっぱなしだったと思います。
「体、あったまったね!」と言って部屋に駆け戻り、残り半分の時間、ものすごく集中して作業しました。それまでは、回り道・脱線も多く、目に見える作業としては殆ど進まない日もありました。しかしそれは、思い描く世界に広がりがあるが故の回り道・脱線、有意義な脱線だったと思います。共同作業と対話を繰り返すうちに、「思い」から「形」への距離はいつしか縮まっていました。完成を目前に、今この瞬間、互いが手分けした作業を黙々とこなしているのに気がつきながら、そんなことを考えていました。
この記事を書いている一週間後、いよいよこの「しぜんの家」を森の中へ置くという、最後の楽しみが待っています。自ら発案した計画を成し遂げたことを誇りにして欲しいと願っています。

しぜんC2
秋の終わり、1年以上経って崩れてきた「秘密基地」をみんなで修復したり、転がっていた丸太を適当な幅に切って、みんなで椅子を作ったりしました。また別の日には、「ご飯を炊いてみたい!」というK君の発案により、まず山に生えている一本の竹をみんなで切り出しました。そこからさらに一節分を切り出して筒を作り、米と水を入れ、焚き火にあてて炊きました。被せたホイルの蓋をはずして中を覗き込むと、膨らんだ真っ白な米が湯気を立てており、みんなで歓声を上げました。竹もほんのり香っています。実際口にしてみると、大分芯の残った硬い米だったのですが、「うまい!」と叫んでみんなで頬張った一口目の感動は、確かなものでした。

 1月、雪のちらつく薄曇りの日に、沢へ向かいました。「そんな寒い日に?」と思われるかもしれませんが、「だからこそ面白そうだ」とみんな思っているようでした。
地面に殆ど雪はなく、1週間前の残り雪が疎らにあるだけでしたが、沢づたいに上流へ向かってずっと歩いて行った先に、突然真っ白な地面が広がっていました。興奮気味に貴重な新雪を踏みしめたり、偶然見つけた「鹿の頭と首の骨」に驚いてみんなで観察したり、また、雪合戦をしたり。そのうちみんな手が寒くなってきました。自然と「焚き火をして温まろう」という流れになります。
かじかんだ手を温めつつ、残った時間でお餅を一人一個焼いて食べることができました。
残り火で最後まで手を温めたあと、雪と水でしっかりと消火し、沢づたいの帰り道、最後の一個のお餅をお地蔵さんに供え、「今年も宜しくお願いします」と手を合わせ、小雪の降る中を山の麓に辿り着きました。

どのクラスもこのようにして、シャワーのように降り注いでくる、目に見える・見えない様々な自然からの便りを、時に何気なく、時に積極的に受け取り、蓄える時間を過ごしています。