イベント「講評会」「音楽を描いてみよう」2012.3.20

梁川です。

2011年度クラスも無事に終了し、一年間の全作品を展示する「かいがクラス作品展(第3回)」にて締めくくることができました。いつも真剣に取り組んでくれたクラスのみなさん、暖かく見守って下さった保護者の皆様、先生方に、この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

ここに、作品展会期中の3/20春分の日に行ったイベントの様子をお伝え致します。

最初に、展示室で作品を眺めながらの「講評会」をし、そのあと第三園舎に場所を移して「音楽を描いてみよう」という課題制作を行いました。


●講評会(13:00〜13:40)

講評会にはクラスの生徒を含む10数名の小学生が集まりました。

まず、数分間自由に作品を鑑賞してもらった後、課題の種類ごとに作品を見ながら、気づいたことや感じたこと、質問などを発言してもらい、対話を進めていきました。積極的に発言してくれたり、こちらの質問に答えてくれたりする人もいて、みんなで沢山の発見を共有できたように思います。

特に、落ち葉や砂などを用いた「原料さがしから始める絵」のコーナーが、みなさん気になるようで、「これは何を表しているか」「何で描かれているか」や、描くにあたっての着想や動機などの「プロセス」について、細かく見ることができました。また、「静物画」の課題では(そして、他のどの課題についてもそうなのですが)、実際には目に映らない背景の色や、対象物から想起される物語りや風景など、対象物以外のものも描きこまれた絵がたくさんあることを紹介し、そのような「ふくらみ」こそ、絵にしかできないこと、絵の楽しみの1つであることをお伝えしました。

「見る」ことは、眼前にあるものを「見る」と、心の中、頭の中に現れてくるものに目を凝らす「見る」の2つがあります。特に後者の方は、このあと行う第2部「音楽を描いてみよう」に関わってきます。

一年間頑張ってきた作者たちの作品にみんなで拍手を贈り、14時を回りかけたところで、講評会は幕を閉じました。

 

●第2部「音楽を描いてみよう」(14:00〜17:00)

この取り組みは、昨年2月に行ったイベント「みえないものを描く〜抽象画に挑戦」と通ずる部分が多く、また、 2009年度のかいがクラスでも実践したことのある内容です。今回はその時とは異なる曲を、彬先生と一緒に選びました。

ある曲をみんなで聴き、そこから感じ取った風景や場面などを自由に描くのですが、感じた気持ちや雰囲気を描く方法に、線や形や色の要素を生かした抽象的表現の手法があることを、具体例を示して説明し、そのような抽象画の中には現に「音楽そのもの」をモチーフとしたものがあることも示しました。具体例の絵を数点見ながら、タイトルを推測したり、どのように感じるかを答えてもらったり、ここでも活発な対話が行われました。

その後、各自が席につき、「曲を聴いても感じたことは決して声には出さず、画用紙の上に出す」ことを約束してもらい、ある曲を流しました。室内に曲だけが響き渡る、静寂の5分間あまりを過ごしたあと、絵の具や色鉛筆など、好きな画材を準備して、いよいよ制作スタートです。

(お詫び:作品は当日すぐにお持ち帰り頂いたため、全ての作品の撮影ができず、以下の記事では所々抜けています。何卒ご了承下さい。)

「♪1曲目」

(一曲目は、あるクラシックの名曲です。)

Fちゃんは、たくさんの色を吟味してつくり、大胆に抽象的表現に入っいきました。絵の具を垂らしたり、散らしたり。変化に富んだ線や面も、豊かな表情を生み出しています。

キラキラした音色、音の重なり合い。曲が「見え」ました!

 

 

 

新一年生のYeちゃんは、上の学年に負けないくらい、講評会でも、課題の導入でも、積極的に発言してくれていました。

そんな彼女の一作目は、さわやかな青の上に、赤のリズミカルな斑点のある絵。講評会で紹介した「下地に色を塗ってから、別の色を重ねていく」という描き方を、早速実践してみたのだそうです。

 

昨年に続いてイベントに来てくれたG君。今日は、色鉛筆に画材を絞って取り組みました。

次々と色鉛筆を取り出して、色を重ねてゆく姿に勢いがあります。こちらが1曲目の絵。

右上に見えるのは、月の光でしょうか。

中央の時計に光の筋のようなものが交差し、虹色に光るしずくのような、玉のようなものがちりばめられています。

曲からは「少し悲しいきもち」を感じたそうです。しかしながら、絵はそれ以上に、そのような一言では表しきれない、曰く言いがたい、きもちのニュアンスを表現しているようです。

 

 

 

 

Rkちゃんはご覧のように、画面を右端から順に、色とりどりの丸で埋めていきました。最初の列は絵の具、左の列にいくに従い、クレヨンや色鉛筆、パステルへと画材を変え、色と表情が豊かです。

全体として右から左へと調子が柔らかくなっていく様子は、この曲が中盤で盛り上がったあと、次第に静かに終わって行く様子を思わせ、左端の淡い水色とピンクの面は、最後に静かに残る、曲の余韻を表しているかのようです。

曲の進行と絵の進行の符合がおもしろく、これは「色の楽譜」とも呼べるのではないかと思いました。

色を厳選しながら、かなりじっくりと時間をかけて描きました。

 

 

Stちゃんは、色鉛筆とパステルを使って、空一面を覆うふわふわしたピンク色の雲のように咲き誇る桜の花を描き、そこから花びらが降り注ぐように舞いおちている絵を描きました。赤みの強い、温かいピンク色が胸を打ちました。

 

画面いっぱいに、雨粒が降り注ぐ様子を描いたのはYちゃんです。一番下には、赤い傘をさした女の子とカエルたちがにっこり笑っています。耳で拾った音の一つ一つが、雨粒の一つ一つに込められているようで、広々とした空間が印象的な絵です。(絵の下端が、上記Rちゃんの絵の写真の右側に見えています。)

 

色とりどりの花びらをつけた花、そよぐ風。その花びらの色と同じ色をもつ虹が、空にかかっています。

ただし、空はどんよりとしたグレーです。それを見ると、今まさに雨があがり、花がひらき、虹が広がったというような、時間の経緯、明るさの移り変わりのようなものが感じられます。

曲の展開の中にある感情の変化を一つの風景として表しているようで、驚きました。Sちゃんの作品です。(その上に少し見えているのがYeちゃんの作品)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曲を聴き終え制作に入る前、どの絵の具がもっとも「透明な感じ」を出せるかと尋ねてきたHちゃん。彼女の持つ不透明水彩、透明水彩のセットから、後者を勧めました。

画面中央から描きはじめたときは、まるで湖面に月が映っているようにも見えました。完成すると、透き通った精霊のようなものたちが輪になって集まり、中央に光を集結させているような幻想的場面になりました。

これは、「プラスなきもち」を表しているのだそうです。

なるほど、Hちゃんの他にも何人かの絵に表れているように、この曲には、負から正へ、希望へと向かうようなイメージがしっくりとくるのです。そうしたことを、皆さんの絵から気づかされます。

 

 

たくましい枝振りに太い幹(色鉛筆のタッチが木の厚みを出していますね)、そんな巨木のかたわらに、ピアノを弾く女の子の後ろ姿。そこには斜めに幾筋もの光が差し込んでいます。

こんな場所でこの曲を奏でられたら、そして聴けたなら、なんてすてきでしょう♪

ここちよさと、さわやかさが押し寄せてきます。Srちゃんの作品。

 

 

 

 

 

 

Roちゃんも、真正面から抽象的表現に挑戦してくれた一人です。

まず、画面の隅を黒で塗りつぶした後、中央の余白を別の色で埋めてゆきました。全て埋まると、今度はその色が、周囲の黒を覆うようにして放射状に溢れ出してゆきました。

この曲を聴いて「二つの異なる気持ち」を感じたのだそうです。描いてゆくプロセスも含めて、この絵はそうした二つの気持ちの変化やせめぎ合いを表しているかのようです。

 

K君は、線をつかった抽象的表現で音楽を表しました。最初は淡い色で、そして、次第に絵の具の濃度を上げながら線を重ねていき、最後に至っては、チューブからそのまま絞り出した絵の具で線を描いています。

序盤の静寂、そして終盤にかけてきらびやかに音が重なり合い、曲が盛り上がって行く様子が、奥から手前へと迫るように描かれています(私はそのように感じました)。彼は、絵で音楽を「奏でたのだ」と思いました。序盤からクライマックスまで、曲の全ての余韻が同居したような、不思議な奥行き感。イリュージョンのようです。

 

「♪2曲目」

最初の曲を、早く描き終えた人から順に、ヘッドホンを使って次の曲を聴きます。まだ、会場のスピーカーで一曲目を聴きながら描いている人がいるからです。

(2曲目は、一風変わった現代音楽の曲です。)

一作目のように、筆やガーゼを使って絵の具をポタポタ垂らしたり、飛び散らせたりしていますが(ドリッピング、と呼ばれます)、確かに一作目とは全く別の音に感じます。

大胆な下塗りの黒が効いているせいです。おそらくは、この曲を支配している雰囲気を「黒」と感じ取ったのでしょう。その上一面に赤色っぽいドリッピング、その一部が最後に水色の絵の具で洗い流されています。自由で実験的な絵のプロセスも相まって、曲の雰囲気にぴたりとくるものを感じます。Fちゃんの作品。

(後日談ですが、彼女は普段、具象的な絵を描くので、このような表現には馴染みが無かったそうです。この日、寝る前に「なんか、変な感覚だったなあ・・・」としみじみ思い返していたそうです。彼女の制作模様と作品を見る限り、新しい表現への好奇心や、感覚を研ぎ澄ませて感じたままを解放する態度、絵に対してとても真摯に向き合っていると感じました。「自分でも見慣れない、自分の絵」を振り返り、ふと、不安に思われたのかもしれません。しかし、それは、れっきとした絵、「ちゃんとした」絵、すばらしい絵、スゴイ絵なのですよ!心からそう思います。そういう絵も大いに「あってよい」のですよ!しかもそれは、可能性のほんの一つに過ぎないのです。今回得た「感覚」にも自信を持って、色々な表現を探求・発見し、可能性を広げて行ってくださいね!普段、お会いできないので、この場を借りてお伝えさせて頂きます。)

 

とても素直に、そしてストレートに感じた音を表しているYeちゃんの作品。

即興的で変化に富んだ独特のリズム、様々な音の種類、そうした曲のエッセンスが、ぎゅっと詰まっています。スゴイの一言です。

(おまけの一コマ。

「失敗しちゃったの。どうしよう・・・」一曲目の絵を描き始めてすぐ、彼女は不安げに、涙ぐみながら描きかけのクレヨンの絵を見せにきました。心配いりません。そんな時は気にせず続きを描いてみるか、どうしてもダメだと思う時は、新しい紙に、何枚だって描き直してみればいいのです。「センセイだって、絵がうまくいかないなあ、ということが、よくあるんだよ。それに、後で見ると『あれ?やっぱりそうでもなかったなあ』と思う事もよくあるから、その絵は置いておくといいよ。」そう伝えて新しい紙を渡したのでした。

左写真は、今日の一通りの制作を終えた後、最初に中断していた絵の続きを描ききって、私たちに見せに来てくれた場面です。「ピアノを描いたんだよ!」と誇らしげに笑いながら言ってくれました。私たちも嬉しくなりました。)

 

 

G君作品。月夜の闇に、燃えさかる炎、その中央にあるのは太鼓とばちでしょうか。ゆらゆらと飛び交うような曲線も、この曲独特の雰囲気を表していますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はみ出すくらいに大きな円を描いたRkちゃん。実は、曲に使われている、ある楽器を表しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この同じ曲で2通りの絵を描いてみたStちゃん。弾けるような、音のかたちを見事に表現しています。

(左上写真の机の上にあるのが1曲目の絵です)

 

ジグザグの線がほとばしっています。絵から、随分と賑やかな音がきこえてきますね。ピンクとオレンジのリズムも楽しげです。

 

立体的な幾何学模様が出てくるところが面白いHちゃんの作品。特徴のある音色(形)をもちながら、それ自体は空気でできている・・・なるほど、音とはそういうものです。

ゆらゆらした、緑や紫色の帯も、聴こえようによっては「怪しい感じ」のする曲の雰囲気をよく表しています。

 

 

 

 

 

4人の楽隊はみな、それぞれ種類の異なる打楽器を奏でています。少なくともこれら4種類の音が聴こえきたのでしょう。

Srちゃんの2作品目。かなり、どんな曲かのヒントになっていますね〜^^

 

今度は色鉛筆で描いているRoちゃん。色とりどり、大小の玉が、降って来て弾んでいるような絵です。玉が、遠くに近くにあるようにも感じられます。音色と音の大小が表されているようです。そうそう、弾むような感じの曲です。

 

Iちゃんの2作品目。タイトルは「たのしい運動会」。たいこが頭を叩きながら(?)走っていますよ!楽しいですね。

妹のYちゃんも飛び入り参加で描いてくれました。聞き慣れない曲に、思わずにっこり。他にもたくさん自由制作をしてくれました^^

 

「なんて曲かなあ・・・」

 

曲を聞き出して、大笑いしていたK君の表情が忘れられません^^そして、聴きながら、筆をとり始めました。

曲の激しい部分が気に入ったのかもしれません。太鼓は破れ、地球は割れています。

 

 

 

「♪3曲目」

今回、3曲目、4曲目まで描いた人もいます。

3曲目は、あるピアニスト・作曲家による、現代的な曲です。

 

Stちゃんの作品は、シンプルでありながら、曲の雰囲気をしっかりと捉えているところに感心します。

そうそう、音がシャワーのように降り注いでくる曲ですよね!

(3色のチョークをつかっています。)

 

 

 

 

 

G君の作品。

窓の外には星と月。室内にも星のモチーフ、そして椅子やテーブル、ワイングラスもあります。これらの踊るような、ランダムな配置が曲のテンポに合っています。

ちょっと大人な雰囲気の、楽しい宴を感じさせます。

おもわず「なるほど・・・!^^」とうなずいてしまいました。

 

 

 

 

 

 

「♪4曲目」

こちらも、皆さんが聴き慣れていないであろう、少し変わった曲です。

 

これは、Yちゃんの4曲目だったと思います。格子の模様が印象的。どのような音か、想像できるでしょうか。

 

G君はこの曲の中に「海辺」を感じました。さらには「夕暮れ」の風景と、「夜」の風景の両方が見えたので、その両方を描きました。心に感じたままの色や形をしっかりと見つめ、それらが消えてしまわないうちに、スピーディーに、ありのままを描き留めている、そんな印象を受けました。その感覚を大切にしてくださいね。

 

 

 

 

 

皆さんがこの日、感じたままに描いた作品は、どれもが「正解」であり、まだまだ無数の「正解」が潜んでいます。

これからもどうか、勇気を持って、自身を持って、堂々と表現をし続けてくださいね!!

また、イベントに遊びに来てください。

(皆さんが思い描いたイメージを大切にしたいので、本当は曲の題を絵の作者には伏せておきたい気持ちもありましたが、今回は抽象的な題のものが多いので、この日用いた曲のリストを、以下に記しておきたいと思います。興味のある方は是非、探してみてください。)

1曲目「 Clair de Lune(月の光)」/ Claude Achille Debussy(ドビッシー)

2曲目「Rebonds B pour “set” de percussions(跳ね返りB(打楽器「セット」のための))」/Iannis Xenakis(クセナキス)実際に演奏している場面も面白いです。Youtubeなどで探してみてください。

3曲目「Jazzmatic」/Giovanni Allevi(ジョヴァンニ・アレヴィ)

4曲目「Suite part four」/He Can Jog