「山びこ通信」2016年度秋学期号より下記の記事を転載致します。

『ラテン語初級文法』『ラテン語初級講読』

担当 山下 大吾

 今学期も前学期同様講読クラスが4クラス開講されております。その内A、C、Dクラスが散文のキケロー、Bクラスが韻文のホラーティウスという内容です。いずれのクラスも受講生はお一方という状況で、疑問点や困難な個所などの確認が一対一で直ちに行われるという非常に恵まれた環境となっておりますが、多人数での和気あいあいとした雰囲気が欠けているのは致し方ありません。いずれのクラスも文法を一通り終えられた方であれば受講可能で、それぞれのレベルに応じたテンポや説明を心がけるようにしております。興味を持たれた方は是非お問い合わせください。
 AクラスではAさんと共に書簡を引き続き講読中です。現在は「縁者・友人宛書簡集」に含まれ、その優れた内容からラテン文学の中でも白眉の一つと称えられる、前45年セルウィウスからキケローに宛てられた書簡に取り組んでおります。統辞的に乱れた箇所があり、その文面からはセルウィウス自身の心の動揺も垣間見られますが、「忘れないで頂きたい、あなたはあのキケローなのだということを」という激励の言葉は、愛娘トゥッリアを失い悲嘆にくれる一私人キケローの耳にどのように響いたのでしょうか。
 Cクラスでは『老年について』をCuさんと共に読み続け、これまでに全体のほぼ半分に相当する41節まで読了しました。Cuさんはラテン語のみならずギリシア語にも関心が広がり、ご質問の内容も回を増すごとにレベルが高くなっているようです。
 Dクラスは引き続きCiさんと共に『トゥスクルム荘対談集』を講読中、1巻の28節まで読み進めました。死に対して古来検討されてきた主要なテーマを議論の対象としながら、著述のスタイルは、相互の意見のやり取りを主軸として論を展開し深めていくプラトン的なものと、指南役一人が様々な見解を述べてそれぞれ検証するアリストテレス的なものが交錯しています。哲学を、その内容のみならず、その器ともいえる文体を含め全てラテン語で再現しようと全力を傾けるキケローの姿が認められます。
 CaさんとのBクラスは『諷刺詩』1巻の第9編に入り、全10編の読了が間近となってきました。諷刺というジャンルで自ずと浮かび上がる揶揄や追従、あるいは罵倒、それら振幅の激しい表現を全て厳格な形式に則って描き出す若きホラーティウスの技量に感服しながらも、初級文法で取り組んだラテン語ならではの折り目正しい姿が、その形式にきちんと反映されているのを確認できるのは韻文を読む喜びの一つと言えましょう。

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