「山びこ通信」2016年度春学期号より下記の記事を転載致します。

『ラテン語初級文法/初級講読』

担当 山下大吾

 今学期は文法クラスが一名の受講生Sさんを迎え開講されております。次学期まで合計24回の授業を通して、岩波書店刊行の田中利光著『ラテン語初歩 改訂版』を教科書として用い、ラテン語文法の基礎を固めるコースです。Sさんは西洋美術、その中でも特に絵画を専攻されており、ラテン語の成句に触れる機会が多く受講を決意されたとの由です。これまでにラテン語学習上の第一の山と評される第三変化を無事乗越えるなど、課程は順調に進んでおります。ゴールを迎える日が今から楽しみです。
 講読クラスは前学期と同じく4クラス開講されております。その内A、C、Dクラスがキケロー、Bクラスがホラーティウスという内容です。
 Aクラスは前学期までに『アルキアース弁護』を読了し、現在はAさんと共に前55年ルッケイユス宛ての書簡に取り組んでおります。自身のせっかちな性格と厚顔無恥を包み隠すことなく顕わにし、強烈な名誉欲に捕りつかれたキケローの姿を目にすると、『スキーピオーの夢』20節以下で地上の栄誉のむなしさを大スキーピオーの口を通して切々と説く当人が同じキケローだとは到底考えられません。彼もまた人の子、皮肉にも第一級の史料としてのキケロー書簡の価値はそれだけ高まる結果となっています。
 Cクラスでは引き続きCuさんと共に『老年について』を読み進めています。Cuさんの綿密な予習は今学期も変わることなく、平易から難解に至る様々なレベルをある程度見分けられる段階にまで到達されているように見受けられます。
 Dクラスのテクストは『トゥスクルム荘対談集』で、Ciさんと共に1巻の15節まで読み進めました。詩や弁論など他の分野と比べ明らかに劣っていると認められるギリシア哲学のラテン語化を目指すキケロー。それはこれまで目覚ましい活躍を続けてきた政治の世界から解放された今しかないと宣言し奮い立つ彼の言葉に励まされながら、プラトーンの対話篇さながらの精緻な哲学談議に毎回耳を傾けています。
 Bクラスは『諷刺詩』1巻の折り返しとなる第5篇を読了したところです。同篇の内容はローマから南イタリアまでの旅日記とも評すべきもので、パトロンであるマエケーナースのみならず、そのサークルの一員でもあり、「絆の深さで私に敵うものは誰もいない」と評するウェルギリウスも登場し、興味は尽きません。その他食中りに襲われた自己の姿を、叙事詩のスタイルをもじる形で滑稽化するテクニックなど、ホラーティウスならではの表現の妙をCaさんと共に味わいながら毎週読み続けております。

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