「山びこ通信」2015年度冬学期号より下記の記事を転載致します。

山の学校ゼミ『社会』 

担当 中島 啓勝

 数期にわたって四名の生徒さんたちと一緒に勉強してきたこの授業ですが、海外についての情報や課題図書から学んだ知識がかなり蓄積されてくるにつれ、現代社会についての問題意識がかなり高度なレベルで共有されてきたように思います。お互い手探りで学んでいる頃とはまた違う形で、よりディープな議論を展開できるようになってきました。しかし、僕たちなりに理解が深まれば深まるほど、これから世界で起こりそうなことの複雑さが痛感されます。知れば知るほど、世界がとてつもなくややこしい方向へと進んでいるように思えて仕方ないのです。
 以前からこの授業では、「民主主義」や「資本主義」が大きな岐路に立たされているという認識に基づいて展開してきたわけですが、去年2015年ほどこの二つが危機にさらされているという事実が露呈した年はなかったのではないでしょうか。シャルリ・エブド事件から始まりパリ同時多発テロに終わる、という悲劇的な一年となったフランスを中心に、終わらない経済危機に苦しむギリシャ、難民受け入れによって揺れる東欧やドイツ、そもそも難民問題の元凶であるシリア・イラクにおけるいわゆる「イスラム国」を中心とした動乱、経済成長にブレーキがかかり始めた中国とそのあおりを受ける新興国、歯止めの利かない原油安によって不安定になる世界中の資源大国、そして安保法制問題によって遂に「戦後の終わり」が現実になりつつある日本・・・。そして、この流れは去年だけの単発的な現象などではありません。今年も、そしておそらく来年も、こうした混沌に満ちた状況は続くと予想されます。
 世界中の人々にとって今年最も注目されるイベントの一つが、11月に決着するアメリカ大統領選であることは間違いありません。しかし、この大統領選が示しているのはアメリカ社会全体の分断、共和党と民主党それぞれの深刻な内部分裂、そして既存政党やエスタブリッシュメントと呼ばれる伝統的支配層に対する幻滅です。今までのアメリカ政治では考えられなかったような候補の躍進はその確かな証拠だと言えるでしょう。そして、どの候補が最終的に大統領になるにせよ、規定路線化していると考えられるのが新政権の更なる内政重視姿勢、つまりアメリカが他の世界へ関与することに消極的になる、という方向性です。これはアメリカの覇権をよく思わない人にはいいことのようにも聞こえますが、逆に言えば先ほどから説明している世界情勢の混乱を抑制するパワーも弱まることを意味しています。「内向き」になるアメリカが一体どのような影響を及ぼすのか、この授業では注意深く観察していく予定です。 これにも関連して、課題図書としては阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(全)』(ちくま学芸文庫)を読んでいます。「アメリカ」と「憲法」、この二つが今の僕たちにとって大きなキーワードなのではないでしょうか。

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