『ギリシャ語初級・中級・上級』クラス便り(2016年2月)

「山びこ通信」2015年度冬学期号より下記の記事を転載致します。

『ギリシャ語初級』 『ギリシャ語中級』(A・B)『ギリシャ語上級』 

担当 広川直幸

 ギリシャ語初級では、Peckett & Munday, Thsrasymachuを用いて古典ギリシャ語の初歩を学んでいる。2月4日の授業で第23課の途中まで進んだ。「語彙集のみを頼りに本文読解をしてもらった後で初めて解説をして練習問題に進む」という基本方針は変えていない。このやり方だときちんと文法を学んでいないという不安が残るかもしれないが、それは杞憂である。各課の練習問題(本文に基づく英文希訳)が解けるということは文法も分かっているということ意味している。それでも分からないところがあるならば、本文を読み直して自分で規則をまとめてみるのがよい。そのほうが、初めに文法ありきで学ぶよりも、はるかに現実的でなおかつ面白いと思う。

 ギリシャ語中級Aでは、アリストテレースの『詩学』を読んでいる。テキストは、L. Tarán, D. Gutas, Aristotle: Poetics. Leiden: Brill, 2012、註釈は、D. W. Lucas, Aristotle: Poetics. Oxford UP, 1968を用いている。写本伝承も悪く、内容も難解なテキストなので、文字通りうんうん唸りながら読み進めている。それだけならば、骨折り損のくたびれ儲け、こんなテキストを選んで後悔先に立たずとなっていたのだが、じっくり原典を読んでみると、予想していた以上に面白い。ヨーロッパの思想というのは実にアリストテレース的なのだなということを実際の文言として発見することができる。こういう発見を大切にしながら、ゆっくり読み進めていきたい。

 ギリシャ語中級Bでは、アリストパネースの『雲』を読んでいる。Wilson校訂の新しいOCTとK. J. Dover, Aristophanes: Clouds. Oxford UP, 1968を用いている。Doverの註釈はかなり専門的なので、もっとやさしい註釈書が欲しいところだが、ないので仕方がない。SommersteinやHendersonの対訳本を読んでから、Doverの註に進むのがよいかもしれない。『雲』はこの授業で読む初めての韻文作品ということもあり、まだ韻律分析を重点的に行っている。月に2回の授業では、授業中に十分に音読練習をすることはできない。毎日10分でもよいので、既読部分を「声に出して読む」練習をしてもらいたい。

 ギリシャ語上級では、引き続きアイスキュロスの『テーバイ攻めの七将』を読んでいる。今学期で読み終えることができるかもしれない。だが、どうも後半部分には単純なinterpolation以外にも厄介な問題が潜んでいるようで、なかなか思ったようには進まない。きちんとデータを取っているわけではないので、主観的な物言いになるが、800行に入るあたりからギリシャ語がおかしい感じがする。アイスキュロスのギリシャ語は「日常言語に加えられた組織的暴力」という詩的言語の定義を体現しているようなもので、そもそも変なのだが、それとは違うベクトルのおかしさを感じる。