「山びこ通信(2014年度冬学期号)」より、下記の記事を転載致します。

山の学校ゼミ『経済』           担当 中島啓勝

 このクラスは、主に経済ニュースの解説と経済書の輪読の二本柱でやっています。
 経済ニュースでは、以前はよくアベノミクスについての解説をやっていたのですが、最近はもっぱらトマ・ピケティの『21世紀の資本』を話題に取り上げています。この本は600ページ超の経済専門書にもかかわらず、昨年12月の発売からすでに13万部を売り上げ、社会的に大きな話題になっています。本の内容を一言でいうと「近年、富の格差が20世紀前半レベルにまで拡大している」ということなのですが、世界各国の富・所得の格差データを100年~200年のスパンで収集し、長期的な格差の変動を実証して明らかにしてみせた点に高い評価が集まっています。そのうえでr(資本収益率)>g(経済成長率)という非常にシンプルな公式によって、その長期的傾向を示してみせたことにピケティの功績があるのだろうと思います。
 1月にピケティが来日していたこともあって、テレビや新聞などで取り上げられる機会も多かったようです。受講者のおふたりもこのピケティブームには関心を持たれていたようだったので、ピケティの主張について三人であれこれといろんな議論をしました。ピケティの功績を認めつつ、しかし彼が提案しているグローバル資産課税というアイデアは本当に実現可能なのか、それ以外に格差を是正する良いアイデアはないのか、そもそもこの富の格差を本当に是正する必要があるのか、など幅広い観点から議論をすることによって、現在の世界経済のあり方についての理解を深めてもらえたかと思っています。
 輪読本としては、堂目卓生さんの『アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界』(中公新書)を読みました。春学期にアダム・スミス『国富論』を読んでいたのですが、途中からだんだん話が難しくなってきたという声が出たので、それではいちどスミスの解説書を読んでみましょうということになり、バランスの取れたこの本を選びました。優れた古典というものは常にそうですが、『国富論』や『道徳感情論』におけるスミスの洞察も、現在の社会にそのまま当てはまるような鋭い指摘が多く、いつも読んでいて感心させられます。輪読の際も毎回、現在の経済ニュースに引きつけながら、受講者の方と一緒に議論をすることで理解を深めていただくようにしています。
 次からは水野和夫さんの『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)を読もうかという話になっています。この本も昨年20万部を売り上げて話題になりましたが、文明史的な観点から資本主義の行く末について考えよう(資本主義の終焉か?新しい資本主義なのか?)という趣旨です。講師の私自身も毎回学ばせていただきながら、授業を進めています。

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