「山びこ通信(2014年度冬学期号)」より、下記の記事を転載致します。

『ラテン語初級文法』, 『ラテン語初級講読』(A・B・C)   担当 山下大吾

 今学期の文法クラスは、受講生Yさんを迎えて三箇月で終える速習コースで開講されました。教科書は岩波書店刊田中利光著『ラテン語初歩 改訂版』を用いています。Yさんは大学でフランス文学並びに哲学の研究に取り組まれ、この先研究を進めていくに当たり、単に語学的側面に留まらないラテン語の文化史的意義や必要性を痛切に感じられたとの由。ラテン語の文法変化やそれに伴う用法の多用さに少しく驚かれつつも、スピノザやデカルトを原典で読むという明確な目的意識と共に勉学に励まれております。
 講読クラスでは引き続きAクラス並びにCクラスではキケロー、Bクラスではホラーティウスに取り組んでおります。いずれのクラスも文法を一通り終えられた方でしたら参加可能です。
 Aクラスは開講以来継続受講されているHさん、Araさんに加え、今学期から新たにTさんと、前学期まで文法クラスを受講されていたAsaさんが参加され、俄かに賑やかなクラスとなりました。テクストも装いも新たに『アルキアース弁護』となっております。このクラスでは『カティリーナ弾劾』以来の弁論となりましたが、前学期まで取り組んでいた『老年について』などの哲学的対話篇とは一味異なる文体や修辞技法の冴えに留意し、冒頭部で頻出するhumanitas「人間的教養」の意味を噛みしめながら、一語一語読み進めております。
 Cクラスでは引き続き『友情について』に取り組んでおります。受講生はCiさんお一方で、全体のおよそ半分に当たる47節まで進みました。その47節には「心労から逃げようとすれば、徳からも逃げなければならない」という至言が収められています。
 Bクラスでは『書簡詩』の1巻の各歌を順に読み進め、現在第7書簡を講読中です。受講生は引き続きCaさん、Mさんのお二方で、ホラーティウスならではのユーモア、ウィットにも大分親しまれてきたように見受けられます。
 註釈書を参照すると、ホラーティウスの作品には、膨大な量に及ぶ全ラテン文学中でただ一度しか用いられていない例、いわゆるἅπαξ λεγόμενον(ハパックス・レゴメノン)がかなり多く含まれており、しかもそれらが一見するとどこでも見られるような、比較的容易に読み解ける表現や語句であることに気付かされます。『詩論』の242-243行で述べられる「語の一続きとつながりにはとても力があり、平凡なことから採られたものには多大な名誉が加わる」という彼の持論は、決してこのような例のみを対象としていないのは明らかですが、これらのハパックスは、一流の詩人としての証をさりげなく示している有言実行の好例と言えるのかも知れません。

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