『山の学校ゼミ(数学)』(クラス便り2014年6月)

「山びこ通信(2014年春学期号)」より、クラス便りを転載致します。

『山の学校ゼミ(数学)』 担当:福西亮馬

このクラスでは、『虚数の情緒』(吉田武著、東海大学出版会)をテキストにしています。この原稿を書いている時点では、410ページの1次方程式や2次方程式のあたりまで進んでいます。

1次方程式は、ax+b=0を解くとx=-b/aという有理数(分数)の形が現れます。つまり有理数の世界と密接な関係があります。そして2次方程式は、一番簡単な形であるx2=aにでさえ、必然的に平方根が登場します。すなわちそこに無理数の世界への扉が開いていることになります。そして有理数に、無理数という視点が加わって、実数の連続性という概念、または直線の「つながっている」という幾何学的イメージがはじめて獲得されることになります。

さて、『虚数の情緒』の404ページにある、円周率を求める漸化式を、パソコンで計算させたところ、途中から出てきた値が0、0、0…となり、「あれ!?」となったことがありました。すなわち、本に書いてある通りの「桁落ち」が生じたのです。お恥ずかしながら、私はその時「計算機に計算させているのだから大丈夫」という意識がありました。絵に描いたように典型的な過ちをおかしていたのです。そこで、「それがまさしく『桁落ち』なのではないですか?」と指摘して下さったのが、受講生のMさんでした。それで、「なるほど! これがその、『それ』だったのですね」と、改めて腑に落ちたのでした。

そこで、これもまた本に書いてある通りに、「分子の有理化」という工夫を施しました。有理化は、ふつうは分「母」に対して行うものなのですが、時には分「子」に使っても意味があるのだという、いわば守破離の「破」のテクニックです。それによって、ほんの少し漸化式を書き直した結果、実際に、その式のはじき出す円周率の近似値が、だんだんと精度良く求められることが確かめられたのでした。計算機の誤差について、一つまた得心できた経緯でした。

『虚数の情緒』は、この後502ページから、本の題名と同名の節に入ります。虚数(複素数)の登場です。そしていよいよ真打ち、「オイラーの公式」が登場します。以前の山びこ通信でも、「そこまで一里塚を見ながら頑張りましょう」というように書いたことがありましたが、ぜひそこまでお付き合いいただけると嬉しいです。また、同書の584ページにある図表『「オイラーの公式」の立体表現』は、いわゆる「形相悦」に浸ることができ、一見の価値ありです。