『ユークリッド幾何』(クラス便り2014年6月)

「山びこ通信(2014年春学期号)」より、クラス便りを転載致します。

『ユークリッド幾何』  担当:福西亮馬

前学期に引き続き、ユークリッド『原論』第3巻の内容を証明しています。今学期は、命題3.10~22までを、飛び飛びながら証明しました。ここまでで第3巻の2/3にあたります。そしてその中には一つの山場として命題3.21がありました。有名な「円周角の定理」です。その証明の仕方を学校の黒板で見て「書き写す」のでなくて、自分の力で証明してもらったことには、意義があったのではないかと思います。また生徒のR君はそれを2通りの方法で示してくれました。

さて、第3巻は「円」がテーマです。円(周)とは、ユークリッド幾何における定義では、1点(中心)から等距離(半径の長さ)にある点の集まりのことです。つまり、中心と半径という二つの情報だけで一意に決まります。逆に、中心と半径が同じならば、その円は同一視してよいことになります。

そこでR君には、命題でもし円が与えられたなら、すぐにその「中心」を描き入れることが第一のポイントになる、ということを伝えました。そして中心を描き入れることは、すなわち、中心から円周に向かっての「半径を描き入れる」ことでもあります。そしてもしそれが2本あれば、半径が等しいことから、「二等辺三角形」が見えてきます。円を扱った命題の証明は、たいていはこの二等辺三角形(とその底角が等しいこと)が鍵となっています。こうした一連の手続きは、あたかもスポーツのフォームのようなものです。それがだんだんと無意識にできるようになってきた頃には、おそらく幾何も得意に感じられるようになってきた頃でしょう。R君は今その練習をしてくれています。

また一方で、R君は、図の中のそれぞれの点や角に、自分で「名前を与える」ということについて、ずいぶんと慣れてきました。以前はこちらが「ここを点Aと名付けてみよう」と促していましたが、最近では何も言わなくても自分からそれをするようになってきています。一歩一歩の進みだと思います。この「名付ける」ということは、一見当たり前に思えますし、また数学的な要素ではないようにも思えますが、実は「定義を置く」という大事な力が問われています。その有無が、証明できるかどうかを分けている場合も多々あります。そして名付けるためには、ある程度先を見通すことも重要です。そこでうまく工夫がなされていれば、あとで補助線を見つけることや、立てた式の整理もまた容易になってきます。

以上のようなことをコツコツと練習しながら、R君には引き続きその成果に胸を張ってもらえればと思います。

さて、第3巻の最後の山場は、何と言っても、命題3.35にある「方べきの定理」です。そこまで登りきることができれば、一つまた大きな達成感が味わえることでしょう。R君は去年に第1巻を読み終え、「三平方の定理」とその「逆」の証明を成し遂げました。その時のことを思い出しながら、今も新しい峰に挑戦しています。