『イタリア語講読』クラス便り(2014年2月)

『山びこ通信』2013年度冬学期号より、クラス便りを転載致します。

『イタリア語講読』 担当:柱本元彦

相変わらず三名で継続中のイタリア講読では、ついに古典を読むことになりました。拍手して喜びたいところですが、講師のレベルからすれば苦笑いしながらの覚束ない出発です。ともかく、イタリア文学の古典は基本的に韻文ですから、シラブル、アクセント、詩行のリズムと韻の基本に触れようと考え(無理矢理な感じですが)、トルナトーレ『ベスト・オファー』の後はしばらくオペラの台本にとりくみました。モーツァルト/ダ・ポンテの『ドン・ジョヴァンニ』を読みましたが、これはイタリア語をやってよかったなあと思わせるオペラのひとつですね。実際のところ、モーツァルトの後期オペラが『魔笛』を除いてイタリア語なのは、われわれイタリア関係者には非常に喜ばしいことと言えます。話を戻しますと、読みはじめた古典は、ダンテの『新生』です。『神曲』のように難しくはない短いテクストですが、それでもなかなか手ごわい相手です。講師も生徒も区別なくああだこうだと話しあう、読書会的な授業にしたいと考えています。この『新生』は、散文に三十篇ほどの詩が埋め込まれたもので、いわゆる<歌物語>というジャンルに属します。<歌物語>は、日本にも古くは『伊勢物語』、新しいところ?では立原道造の『鮎の歌』など、個人的にはとても好きなジャンルです。ですがなぜかイタリアにも日本にもそれほど数がありません。ほんとうに不思議なことです。ちなみに散文と詩が混じると言えば、まるで会話に歌が混じるオペラのようではありませんか。もしイタリアで歌物語がしっかりと根づいていたなら、結局のところ荒唐無稽なものが多いイタリア・オペラの台本も(モンテヴェルディの『ポッペアの戴冠』など例外中の例外)、もっと違ったものになっていたかもしれません。