今号の山びこ通信(2013/2)から転載いたします。

『将棋道場』(担当:百木 漠)

私が将棋道場を担当させていただくようになってから、もうすぐ3年が経とうとしています。これまで将棋道場にはたくさんの子供たちが参加してくれました。初回からほとんど毎回のように通ってくれている子もいれば、数ヶ月に一度くらいひょこっと顔を出してくれる子もいますし、なかにはぐんぐんと力をつけて将棋道場のレベルでは物足りなくなり、実質的に「卒業」していったような子もいます。将棋道場への参加度合いは違っても、それぞれの子供たちが将棋というゲームの面白さの一端に触れてくれたのであれば、私としてはそれだけで十分に嬉しいことですし、その経験が何らか子供たちの糧になってくれるのではないかと考えています。

将棋道場を続けるなかで子供たちに伝えるように心がけてきたのは、将棋がただ単純に「勝てばいい」という種類のゲームではなく、勝負と同時に礼儀や作法が重要視されるゲームだということです。これまでも何度か山びこ通信で書かせていただいたことですが、将棋は礼に始まり礼に終わるゲームです。柔道や剣道など○○道とつく日本のスポーツや芸事に共通する特徴です。以前、プロ将棋棋士の羽生善治さんが将棋とチェスの違いを聞かれて、「チェスはスポーツ、将棋は伝統芸能なんですね」と答えておられたのが印象に残っています。もちろん将棋も対戦者どうしが真剣に勝負を競うという意味ではゲーム・スポーツの一種なのですが、それだけでなく、礼儀・作法・かた・美しさなどを重んずる「芸能」の要素も大きい。

テレビでプロの将棋対戦をご覧になったことがある方ならお分かりになるでしょうが、プロの対戦は非常に静かに美しく勝負が展開します。駒の持ち方、並べ方、正座の仕方、姿勢、扇子さばきなども含めて、一定の「かた」が将棋の世界にはあります。勝負がついたときにも、勝者がガッツポーズをするようなことは決してなく、敗者が静かに「負けました」と頭を下げ、勝者も静かに「ありがとうございました」と頭を下げて終わります。その後もしばらく沈黙が続き、やがて静かに感想戦が始まります。

さすがに小学生を相手にした将棋道場でそのような完璧な形式美を子供たちに要求するわけにはいきません。なにしろ元気いっぱいの子供たちですから、一局が終わるまでずっと椅子に座って勝負に集中しているだけでも大変なことです。そんななかでも最低限これだけは、と思って徹底させてきたのは、勝負が始まる前の「よろしくお願いします」と勝負が終わったあとの「負けました」「ありがとうございました」の挨拶をしっかりとすることです。この挨拶がしっかりできるだけでも、勝負への集中度合いがずいぶんと変わってくるものです。毎回のようにこのことを繰り返し伝えてきた効果もあってか、この習慣だけはずいぶん子供たちの間に定着してきたのではないかと感じていまし、その習慣から子供たちが何かしら大切なことを学んでくれればと思っています。これからも将棋が強くなるコツを教えると同時に、将棋を通じて礼儀や作法の大切さを子供たちに伝えていくつもりです。

(百木 漠)

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