『ラテン語初級文法A』 (担当:山下大吾)

蝉しぐれの降る中アルファベットから始まった当クラスも、いつしか紅葉が過ぎ、今では白い息を吐きながらお山の階段を上るようになりました。刺すような真昼の日差しも懐かしく、ふと気付けば、学びの場である離れの間を木々の間から柔らかに照らしています。二学期制で始まった当ラテン語初級文法Aクラスは、お一方の受講生を迎え、毎週ゆっくり急げの歩みを進めております。

初めての試みとして始まった二学期制のカリキュラムですが、前学期乗り越えた名詞形容詞の第三変化に続き、今学期では動詞の接続法も無事その「山」を登り終えました。この数週間は、その日学ぶべき新しい項目と並び、過去に学んだ項目を可能な限り復習する授業が行われています。

山の学校開校以来行われている、一学期三箇月でラテン語文法の基礎を習得する速習コースの利点を活かしつつ、倍となった時間を有効に活用しております。古典からの直接の引用を通して、当日学んでいる項目の確認を行えることがその一つと言えましょう。関係代名詞の項目では、ホラーティウスのBeatus ille qui procul negotiis「幸いなるかな、俗事を離れたる者」、並びにその応用として、ウェルギリウスのUrbem quam statuo vestra est「私が建てている都はあなた方のもの」という章句を紹介いたしました。更に後者が、一見破格と思えながらも、実はその言葉を口にした女性Didoの、Urbem praeclaram statui mea moenia vidi「私は素晴らしい都を打ち建てた、我が城市を見届けた」という辞世の句と呼応していること、ウェルギリウスならではの詩的技法の一端を、受講生の方と共に味わうことが出来たのです。

ある日の授業のことです。いつものラテン語和訳問題の途中で受講生のCさんがにわかに口ごもりました。ある一語の意味、文法事項がどうしても理解できないようです。失礼なこととは思いながら、ふとCさんのノートに目を留めると、その一語に似た語を、辞書を引き引き可能な限り書き留められた跡が見て取れます。正解はすぐに分かりましたが、その語にまつわる「ドラマ」は、Cさんの心にいつまでも残り続けるのではと思われます。むしろ易々と「正解」にたどり着いた方よりも、数等貴重な経験となるのではないでしょうか。かく言う当方もその例にもれず、その語に現れた二重母音の処理、解釈に、その後長く悩まされることになりました。

(山下大吾)

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