イタリア語講読(クラスだより2013/2)

イタリア語講読の様子を山びこ通信(2013/2月号)より転載いたします。

 『イタリア語講読』 (担当:柱本元彦)

今学期も三名で、引きつづきタブッキの『黒い天使』第二章からはじめました。ですが誰が誰に話しているのかも判然としないうねうね文にさっさと見切りをつけ、学期半ばで次のテクストに進むことにしました。従属節が多くて接続法や条件法の大波小波にもう酔いそうでしたね。けれどもおかげでいろいろと調べることができました。調べても明快な<解決>には至りませんが、日ごろ疎かにしていた文法について意識を新たにしたものです。広川先生の「ラテン語では…」に刺激され、イタリア語とフランス語・スペイン語の文法比較もなかなか面白いことに気づきました(この作業はしばらく継続するでしょう)。

授業のほうは現在モンターレ(1896-1981)の『この時代のなかで(Nel nostro tempo)』という散文集を読んでいます。タブッキの『黒い天使』はモンターレに捧げられていましたが、実際のところこの詩人の名は、現代イタリア文学の<いたるところに>現われます。ランドルフィに『月ノ石』(河出書房)を書かせたモンターレの山里の家などとりわけ印象的でした。ずっと気にしていた作家でしたが、邦訳もなく何より詩を読むことは簡単ではありませんから、手にもせず敬遠していました。ところが偶然、おそらく二十数年前の留学中に買ったとおぼしきブツを発見。誰だったか、書棚を見ればその人の頭のなかに何がどのように入っているかが分かる、と言った人がいました。たしかにその通りと考えますのでわたしは誰にも自分の部屋を見せません。どこに何があるのかないのかまったく分からないカオス状態ですのでね。

ともあれまさに埃にまみれていたモンターレは、さいわい詩集ではなく量的にも適当な晩年の短文アンソロジーでした。読みはじめるとタイトルにある通り文明批評で、いわば『大衆の反逆』的な捉え方をメインに打ち出した文章です。最初の数ページに目を通して、堅固に根づいたヨーロッパ的人間主義につくづく感心しました(この人間主義の崩壊を詩人は嘆いているわけですが)。たしかにポストモダンの思想もこのような基盤があってこそだったのでしょう。手応え充分な文章の解読にはある程度の予備知識も必要かと思われます。このところ挌闘タイプのテクストばかりですね。。。

(柱本元彦)