今号の山びこ通信(2013/11/1)から転載いたします。

『将棋道場』(担当:百木 漠)

9月の将棋道場では、いつも応援にきてくださっている中務先生の提案を受けて、対局を始める前に、山下先生に昔話「わらしべ長者」の読み聞かせをしてもらいました。「わらしべ長者」は、主人公がわら一本からスタートして、それを様々なものに交換しながら道中を進めていき、最後には大金持ちになって帰ってくるというお話です。

なぜ将棋道場でこの昔話の読み聞かせをしてもらったのかというと、わらを少しずつ価値の高い物に交換していく道程が、将棋の駒を弱いものから強いものに交換していくことで勝ちに近づいていく過程によく似ているからです。例えば、将棋で一番弱い駒は「歩」ですが、これを少し強い駒の「桂馬」や「香車」と交換することで、得をすることができます。さらにそうして手に入れた「桂馬」や「香車」を「銀」や「金」、さらには「飛車」や「角」などの強い駒と交換することができれば、いっそう優勢になります。駒得は局面の有利・不利を判断する際(将棋用語では「大局観」という言葉をよく使います)の大きな指標のひとつになります。

将棋を始めたばかりの子供は、駒の損得をあまり考えず、勢いだけでどんどん指して、結果、大きな駒損をして不利になる、というケースがよくあります。「できるだけ駒損をしないように指しましょう」ということは普段から子供たちによく言っているのですが、今回、「わらしべ長者」の読み聞かせをしてもらったうえで、駒の損得の話をすると、子供たちもすっとその内容を理解してくれたようです。さらには、その後の対局をする子供たちの様子も、普段より集中力があって、熱戦が多く繰り広げられていたような印象を受けました。やはり子供たちへの読み聞かせの影響力はとても強いものがあるのだな、ととても感心させられました。

将棋道場を続けていると、だんだん将棋に飽きてきた子供たちが将棋に関係のない遊びを始めたり、対局中に騒いで周りの子に迷惑をかけてしまったり、ということが時々起こってしまうのですが、このように時々は将棋と関係のない事柄を取り入れることで、道場全体のメリハリがつき、子供たちの集中力が高まるということがあるのだなと勉強になりました。また、私自身、昔話の朗読を聞くのがとても久しぶりだったのですが、童心に帰ったようで、とても良い経験になりました。山下先生の読み聞かせも流石に上手で、それまで騒がしかった子供たちがすっと静かになって、皆で物語を聞き入っている空気はとても心地よいものだなと感じました。「わらしべ長者」の物語が、僕が小さい頃に読んだものとは少し違った内容だった(いくつかのバージョンがあるようです)ことも面白い発見でした。

将棋での駒の損得の話に戻れば、例えば、「飛車」と「銀」の交換ならばほとんどの場合、「飛車」を取ったほうが得ですが、これが「角」と「金」の交換ならば、場合によっては「角」を捨てて「金」を取ったほうが得なときもあります。最終的には、すべてはケース・バイ・ケースと言うほかないのですが、序盤・中盤・終盤、それぞれの場面でも駒の価値は変わってきます。例えば、序盤であれば「飛車」や「角」などの大駒の働きが強いですが、終盤では「金」や「銀」などのほうが相手玉を寄せるのに役立つ場合は少なくありません。その時々の判断で、どちらの駒の交換のほうが得なのかを考えられるようになれれば、立派なものです。これから将棋道場に通う子供たちが、駒の損得を頭に入れながら次の指し手を考えるようになってくれれば、きっとそれだけでも1級や2級分は強くなっていることでしょう。

(百木 漠)

次回は、2013年11月18日(月)16:00~18:00にあります。ふるってのご参加をお待ちしています!

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