今号の山びこ通信(2013/6/17)から、クラスの様子をご紹介します。(以下転載)

 

『イタリア語講読』(担当:柱本元彦)

相変わらず三名で続けています。今回のテクストは比較的簡単なものです(序文は少し複雑でしたが)。時には<早く読む>ことも必要ですから……。著者は映画監督のジュゼッペ・トルナトーレです(日本では『ニュー・シネマ・パラダイス』が有名)。彼の最新作なわけですが、シナリオでもノベライズでもなく、監督が映画を撮る前に書いてしまった<小説>です(フェッリーニの『ジュリエッタ』のように)。75ページほどの短い物語に30の章立てがあり、それぞれ映画のシーンを彷彿とさせます。美術・骨董・競売の世界を背景にして、崩れかけた昔の邸宅、ファンタスティックな修理工房、秘密の部屋、自動人形をめぐり、病的にマニアックな初老の男と自閉症の彼女の歩みよりが、室内劇のように展開していきます。もちろん思いも寄らない(主人公の彼にとって)どんでん返しがあり、そしてラストシーン(読者には考えつかないような)が実に素敵です。一般にトルナトーレ監督の映画には、リアリズム基調のなかに無理矢理センチメンタリズムを押し込んだようなところが見えます。ですがこの作品、『ザ・ベスト・オファー』は、わりあいにドライで、いわばボルヘスの短編をすこし長くしたような趣きの、幻想的な物語になっています。文字を読みながら映像が鮮やかに浮かびますし、面白い映画になるのは確実!と納得の一篇です。サスペンス仕立てですが、結末を知ってなお、実際にどのような映画になったのか、ぜひ見てみたい気持ちになります。その映画は今年の秋には日本でも上映されるはずですから、いわば二度おいしいテクストと思います(講読クラスですが会話の勉強にもなるかもしれませんね)。

(柱本元彦)

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