西洋古典を読む(2022/5/11、5/18)(その2)

福西です。(その1)の続きです。

大地の女神のセリフに、次の表現があります。

Turni iniuria 9.108

トゥルヌスの(Turni)不正を(iniuria)

iuriaは ius(法、正しさ)の目的語(~を)の形です。ius はジャスティスと関係のある単語です。

それに in(否定の接頭辞)がついて、「不正」となります。

トゥルヌスはがんばっているけれども、大地から見ればそのがんばりは「不正」である、と。

この表現は、ウェルギリウス『農耕詩』の次の表現を連想させます。

labor omnia uicit improbus 1.145-6

不正な(improbus)(自然に対する人間の)苦労が(labor)(自然の)すべてを(omnia)征服した(vicit)。

農耕(開墾)という labor は、人間視点では立派な行いです。

うっそうとした森や岩を、なんとかして除去し、農地に変える。そのがむしゃらな苦労は、人間の目には讃えられるはずのものです。

しかし自然の目には、そうした「自然はすべてコントロールできるもの」という人間の行いは、 probus(正しい)ではなくて、improbus(不正)として映ります。

『アエネーイス』は、『農耕詩』のあとに続く作品です。農夫の次には英雄の、戦争における labor が滾々と歌われています。

今回読んだ個所では、トゥルヌスの戦術、戦局を変えようとする彼の不屈の精神が、「不正」であると表現されていることが、興味深いです。