西洋古典を読む(2021/11/7~12/1)(その1)

福西です。

ウェルギリウス『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)を読んでいます。

7巻の249~639行目を読みました。

ユーノーの暗躍と、それに翻弄される地上の人間たちの心理・行動が描かれます。

ユーノーは冥府から復讐女神アッレクトーを召喚します。

7.312

flectere si nequeo superos, Acheronta movebo

天上の神々の心を靡かせることができなければ、アケロンを動かそう

アケロンは地下、冥府のことです。

この詩行は有名で、無意識の存在を論じたフロイトの、『夢判断』のエピグラフにもなっているほどです。

ユーノーは、これまでは嵐の神アエオルス(1巻)や愛の女神ウェヌス(4巻)の力を借りました。それでもアエネーアスのイタリア上陸を止めることはできませんでした。

そこで、ユピテルの運命(ローマが興ること)を遅延させるために、とうとう「禁じ手」にまで手を出したのです。

 

ユーノーによって行動の自由を得たアッレクトーは、第一に、王妃アマータの心に火をつけます。アマータはバックスの信女のように狂い、森で松明を振り回して、母親たちを扇動します。

7.402-5

「ラティウムの母たちよ、みな、その場で聞くがよい。(…)母の権利を思って心が痛むなら、髪の毛を留めるリボンを解け。我が狂乱の秘儀に加われ。」

このような様子で、森の中といわず、野獣の棲む荒れ地の中といわず、どこへでも女王をバックスの突き棒でアレクトは追い立ててゆく。

まるでメガホンを構える抗議集会のようです。

(これは現代の小説なら、「アマータは、なぜかわからないが、それをしてしまった」と書くところでしょう。もともとしたかったけれども、理性で抑え込んで、できずにいた行為。それを神話では「(彼女にふさわしい)神がそうさせた」と説明がつけられます)

アマータは、ラウィニアの結婚相手には、アエネーアスではなく、トゥルヌスを望んでいるのでした。

直接書かれていませんが、ラティーヌス王がアマータの説得に失敗していることが伺えます。

(その2)へ続きます。