西洋古典を読む(2021/9/15)

福西です。

『アエネーイス』(岡道男・高橋宏幸訳、西洋古典叢書)6.854-866を読みました。

英訳の『The Aeneid』(Robert Fagles訳、Penguin Classics)の該当箇所は、985-999です。

ローマ人の英雄のカタログもいよいよ終わりが見えてきました。

マルケッルス親子の霊です。

印象深かった箇所は以下の通りです。

「父よ、あれは誰ですか、ああして勇士と並んで行く者は。」(岡・高橋訳)

英訳の方は以下の通りです。

“Who is that, Father, matching Marcellus stride for stride? ─(Fagles訳)

アエネーアスは、父アンキーセスから、マルケッルス(父親)の未来の勲を聞いた後、その息子のこともたずねます。

息子の方のマルケッルスは、アウグストゥスの姉オクターウィアの子。アウグストゥスの養子になる人物です。

それまで意気揚々と説明していたアンキーセスの声が、突然、哀調を帯びます。

 

受講生のA君が、興味深いコメントをしてくれました。

「マルケッルスについて尋ねるアエネーアスが、場の空気を読まないと言うか、あえてそうすることで、物語を進める役をしているように思いました。

つまり、アエネーアスは、主人公と、物語を進める役と、二役しているかのようです。この構造は、現代の小説ではあまりないように思います」

と。

A君の言う「物語を進める役」というのは、物語の中で新しい出来事を起こす第三者的な人物(作者の構想通りに筋を運ぶための、事件の引き金役)のことです。

この場面にはシビュッラもいます。なので、アエネーアスではなく彼女が「あれは誰ですか?」と質問してもよかったはずです。そして現代の小説ならそう書くだろうというのが、A君の着眼点でした。

なるほどと思いました。

A君の「二役」という言葉で、私が思ったのは、次のことでした。

アンキーセスがもし「アンキーセス+作者ウェルギリウス」だとすれば、アエネーアスは「アエネーアス+当時のローマ読者」なのではないか、と。

 

次回は6.867-885(英訳1000-1021)を読みます。