西洋の児童文学を読む(2017/4/13)

福西です。4月から新しくスタートしたクラスです。どうぞよろしくお願いいたします。

この日は、授業の進め方を詳しくガイダンスしてから、序章(p12-16)を読みました

1)雑談から始めました。

生徒たちは、作者トンケ・ドラフトが男性だと思っていたようでした。女性で、オランダ領インドネシア(異文化)で子供時代を過ごしたことを伝えました。また、挿絵や地図もみな作者の手によるものだと伝えました。

舞台となる地図を一枚ずつコピーして、見やすく手元に置きました。

東にダホナウト、西にウナーヴェン、その中央には大山脈が南北に走っています。そのほか南にエヴィラン、デルタラントという国名が見られます。「あ、一部エヴィランに占領とある」「あ、ここにメナウレスが住んでいる」(ネタばれ含む情報)など、など。それぞれの発見を言い合いました。こういう地図を見ると、ワクワクするなあと、みんなで空気を共有しました。

あと、この『王への手紙』は、実は「中学以上」対象であることも伝えました。生徒たちからは、「ぜんぜん大丈夫やった」という反応でした。「内容が面白かったから、もう上巻まで読んだ」など。ある意味、そうした声を聞けたことが、このクラスを始めるにあたり、一番ほっとしたことでした。

テキストへの愛情がこのクラスのまこと原動力です。

 

2)アンダーラインの例、付箋の例(私の場合)を示しました。

これは一例で、結局は各自、自分のやり方でいいと思います。

というのも付箋のデメリットは、「はがれる」ことです。なので、何かコメントを残したい時、ページの余白が許せば、本に書き込む方が耐久性のある方法だと思います。(もちろん自分の本だからできることです。図書館の本でしてはいけませんよ!)

ただ書き込みにもデメリットがあって、それは「夢中になりすぎる」ことです。(消しゴムで消してページが破れることもあり)。そのような書き込みを抑制する意味で、付箋は意味があるかなと思います。ノートに書き込んでいる人は、それでいいと思います。(それが一番手堅いと思います)

私の場合は、語彙の意味は、青い付箋で横向きに(ページの上から下へ向かって)、自分のコメントは赤い付箋で縦向きに(該当行に)貼ることにしています。

上の付箋は、1章4節までの予習分です。この調子で行くと、おそらく全体でテキストが良くも悪くも「立体的」になるかと思いますが、私も実は、実験的にそれをしています。アイデアとしては、電子書籍の原始的な真似です。やりたいと思う人だけ、いいとこどりしてみて下さい。要は、そのページをいつかまた開けた時に、それを読んだ時を髣髴とさせるような「思い出を残す」ということであれば、どんなやり方でもいいと思います。

アンダーラインは簡単にできると思いますし、付箋は任意でいいです。また、要約はサビの節や飛び飛びでもいいので、気が向いたらこしらえてほしいと思います。(今回、1章4節までの要約の例文を配りました)。

 

3)音読のルールを決めました。

・各章の最初と最後の段落は、全員で声を合わせて読む

・それ以外の箇所は、一人一段落ずつ(反時計回りに)読む

生徒たちは胸を張って朗々と読んでいました。思いのこもった声が合わさるって、いいですね。清々しい気持ちになりました。こういう好循環って、いいです。

実は、男の子たちは「最初から最後まで全員で声を合わせる」と意気込んでいたのですが、Aちゃんが「それだと、だんだんしんどくなるよ」ともっともな意見を出してくれて、上記のような落としどころと相なりました。

 

4)お互いアンダーラインした箇所の確認をしました。

「いまはまだ、その国について話すときではない」という伏線の貼り方や、「私は、古い、古い書物から、以下の数節を書き写した」という書き出しが「うまいと思った」とK君。自分の創作にも応用できそうだと目を光らせていました。

吟遊詩人の歌の中で、ダホナウト王国は「わが国境の内に住むのはよいことだ」とありました。そこで「秩序」という言葉が議論のテーマになりました。

辞書には「条理があること」とあり、反対に不条理とは何かという話になりました。たとえば、怒られ損。決めつけや不公平な裁き。そのようなことが「ない」というのが、条理だという話に、

「いい国やなあ、ダホナウトは!」

と三人それぞれため息がもれていました。(なのに日本は…みたいな声がちらちら出ていました(苦笑))

「…と、吟遊詩人が歌っている」

と、私からは付け加えました。

次いで国が侵略されたらどうなるか、という話になりました。まさに上の理不尽が横行することになるだろうと。そうなら「ない」ように、領地を持つ騎士や放浪騎士たちが守っているのだと。最初に地図で見たデルタラント国が「一部エヴィランに占領」とあることが物語上のリアリティを増していることを確認しました。

そして、騎士たちの特徴(どういう騎士なら味方になってほしいか)について話し合いました。

テキストでは、「忠実」「高潔」「協力を惜しまない」「勇敢」と書かれていました。それに加えて、生徒たちは「剣、鎧、盾などの武具、命、体、馬、王の命令をよく聞くこと、知恵」などを付け加えていました。そして、それらがなかったら、それぞれどうなるかで想像を巡らせました。いろいろなシチュエーションがたとえ話に出て、面白かったです。

また、「高潔」を「清潔」とうっかり言い間違えたK君が、とっさに「そうか、精神が清潔ということか!」と腑に落ちていました。まったくその通りだと思います。

 

5)語彙の確認をしました。

他にも意味を調べてきてくれたE君が、「『証明』の意味が自分の思っていたイメージと辞書に載っていたそれと違っていて少し驚いた」と報告してくれました。説明するというイメージだったのが、「真実を見つけ出す」という意味合いに変わったからだそうです。

またK君が、「『叙任』が国語辞典には載っていなかった」と言い、他の二人も、「そう、そう!」と。そこでK君は「なので、広辞苑で調べてきた」と、その意味を全員に伝えてくれました。「官職をさずかり、それを引き受けて、自分の責任とすること」でした。

私もそれで、自分のイメージのずれを修正することができました。というのも、単に官職をもらうことが叙任だと思っていたからです。そうではなかったのですね。「そうか、『自分の責任とすること』なんだ。今まさにティウリたち騎士候補生も、礼拝堂でそれをしているんだな」と教えてもらいました。「叙任」に含まれるこの意味は、この後の予告でもあるわけですね。

 

さて、事前にこのブログで書いていた授業の進め方は、生徒たちには実はまだ周知せずに、初回で説明しようと思っていました。なのですが、いざテーブルを囲んでみると、すでに生徒たちは自分でできることをして臨んでくれていました。その熱心な一人ずつのノートを見て驚きました。たとえば、語彙調べをかなり徹底的にしていることを、私は正直予想していませんでした。もしかしてみんなで集まって「勉強会」でもしたのかな?というように、三人のノートが黒々としていることに、思わず目をこすりました。

ぜひそのノートに今後も愛情を注いであげてください。きっと植物のように育つと思います。

 

【追伸】

次回は、1章1節「礼拝堂で」を読みます。

2節までは進まないように思いますが、以前読んだ人も、読める人は先を読んで思い出しておいて下さい。

今回のガイダンスでは言い洩らしましたが、いずれ、アンダーラインやその注の付け方が変っていきます。

たとえば、

p100にA~A、p200にA’~A’

という似た表現(重要な意味の重なり)が出てきたことに気付いた場合、

先のA~Aのアンダーライン横に「→p200A’~A’」と書き、後のA’~A’の横に「→p100A~A」

と相互参照の注を付ける機会が出てきます。この作業が実はものすごく楽しい(再読の楽しみ)です。端的に言うと、今まで以上に作者と深く話しているような気がしてきます。

そうして、テキストを行ったり来たりする読み方になっていくと思いますので、同じ個所を読むことは決して無駄ではなくなっていきます。