『ことば5〜6年』(クラス便り2015年2月)

「山びこ通信(2014年度冬学期号)」より、下記の記事を転載致します。

『ことば』5〜6年

担当 梁川 健哲

 秋学期おわりから冬学期にかけ、6年生のIちゃん、S君、私の3人で、「140句」近い俳句を作りました。1回のクラスで最高54句! 後になってその数に驚きましたが、句の数よりむしろ、「3人で」というのがミソで、「五・七・五を3人で分担して一句を作る」、言わば「最小限の連歌」というような遊びでした。「上五(初句)」を書いた短冊を次の人に渡し、受け取った人が「中七」を続け、三人目が締めの「下五」を書き、裏返しにして机の真ん中に重ねていく…。時々笑ったり、唸ったりしながら、三人の無言の対話がぐるぐると同時進行で回転していきます。(6年生二人の勢いがすごいので、私は途中から受けるのが精一杯で、初句を書く余裕もないほどでした。これまで経験したことのない新鮮な疾走感を伴う対話に、正直私は楽しすぎて、自分の頬が終始緩んでいることに気が付きました。)
この遊びにはもう一つの仕掛けがありました。「百人一首」の中に使われている言葉を予め三人で手分けして抜き出し作っておいた「言葉のおみくじ」を使うのです(重複は気にせず、164語が集まりました)。どうしても句を思いつかない時や、偶然性を楽しみたい時、気まぐれにこの「おみくじ」を引いてよい、ただし引いた言葉は絶対使わなければならない、というルールです。また、おみくじ作りの過程では、「春日」「山鳥」「露」「波」など、自然に関する言葉の数々や、「恋」「忍ぶ」「涙」「別れ」などの言葉も目につき、様々な語彙を発見してくれたのではないでしょうか。
このようにして、古の歌人たちの語彙を借りながら、また、友達との対話により言葉を紡ぎながら生まれた俳句たちを、次のクラスで読み上げながら、「なるほど!(そう繋げるか…!)」「あの句がいいね!」「私はあれが好き!」などと振り返りました。ほんの一部ですが、その作例を文末にご紹介致します。
また、同じ要領で、短冊ではなく、何行も続くノートを延々と回すことで、七五調を意識したもっと長い自由詩を作る試みもしました。こちらも面白いものが出来つつあるので、後日ブログで紹介できればと思います。

こうした言葉遊び自体もまた、クラスでの対話から湧いてきたものでした。元々、感じたまま素直に言葉を綴ることが得意な二人なのですが、屋外に出て自然と向き合うだけではマンネリ化してしまい、何かもっと引き出す工夫が必要だと感じるようになりました。
そこで先述の言葉遊びに先立ち、ある日こんな課題を出してみました。「今日はこれから、『何もしない』ということをしてもらいます。ただし、屋外に居て下さい。園庭のどこにいてもよいです。何か必要があればいつでも来てください。」そう伝え、園庭からほど近い園舎で待機していました。「何もしなくてよい」と言われ、不思議そうに顔を見合わせて笑うと、二人は石段を上っていきます。
クラスも残り20分足らずの頃合いで、園庭に様子を見に行き、私は二人に記入用紙と鉛筆を渡しました。
「Q.1. この時間、何もしていませんでしたか?それとも、何かしていましたか?」
「Q.2. (「していた」と答えた人へ)どこで、どんなことをしていましたか?何を考えていましたか?」
「何かしていた」二人は、「滑り台を滑って懐かしいと思った」「ジャングルジムの上から空を眺めていた」「芝生の上に寝っ転がっていた」「先生は、どうしてこんなことを言ったんだろう?と思った」など、色々と教えてくれました。クラスの終了時刻がきてしまいましたが、本当はもっともっとあったのではないかと思います。(私はと言えば、二人が何をしているのかなぁと想像しながら、一緒に過ごしたいのをじっと我慢しつつ、質問を考えていました。)この課題がどういった意味を持つかは、皆さんのご想像に委ねたいと思いますが、二人に「気負わずに過ごす時間」の感覚を認識して欲しかったというのが一つです。

「俳句遊び」は一旦休止し、最近ではお題を出し合って「謎掛け」をしています。これは、物事の性質を深く知ったり、関係性を発見するのに役立ちます。今後、アナグラムづくりや、言葉のもつ「語感」を意識する遊びも予定しています。
このようにして、自分ひとりだけでは出てこない語彙や、友達の発想に沢山触れたあと、冬学期の最後には再び一人での詩作に戻ってみようと思います。自然と、他者と、自分自身と向き合う中で、「自分の言葉」を見出す喜び。連想を楽しみ、気負いなく言葉を連ねていく自由。そこに立ち上がってくるイメージの面白さ。そうしたことが、ことばへの親しみに少しでも繋がってくれればと願っています。

・以下は、俳句の作例、太字が「おみくじワード」です。

・S→ K→ I 作
見る 未に向かう 青年よ
りたつ 芝草の上 ねころびたい
令だ そうはいえども 山風は吹く
ち続け あらしが去って 遊び
は 色づくに ぐつはく
はね の世の中 別れ
悲しみは 空のかなたへ 飛んでいく

・I→ K→ S 作
タイムマシン 行き先らず 帰れない

・I→ S→ K 作
音楽隊 ブラスバンドが 踊り出す
しいな 友達いなくて 歩く朝
夜の空 山白くして 眠る月
はちみつを 熊はなめるよ 飽きるまで

・S→ I→ K 作
深し 山桜見る おぼろ月

・K→ S→ I 作
この世には いろんな時代が あり続ける
れても 出会いがあるよ どこまでも
日が暮れて 朝日がのぼる ねむたいな