ことば1~2年B(0604)

福西です。

先週の推理クイズ「6つのりんご」の続きをしました。30分ぐらい考えて、「かごの中にりんごが1個ある」ということと、「最後の6人目がりんごを1個もらっている」ということが、両方同時に満たされる状況とは…? というところまで、こぎつけました。

けれども、この日も残念ながら、まだ、正解(あるいは代りとなる正解)は出ませんでした(^^)。それなので、次回を期待しています。

この日、5月から途中参加だったRt君が、「そのはやきこと風の如く…」(風林火山)の暗唱を完全合格してくれました。「お母さんも覚えたし、お父さんも覚えた。家族全員合格やった」と言っていました。お家で取り組みを応援して下さったのですね。

Rh君が「猫ちゃんも?」と言うと、Rt君は「ずずと、ももは、ニャーしか言わへん」と言って笑っていました。

これで、これまでにした暗唱は4つとも、全員がひとまず「完全合格」したことになります。おめでとう!

ちなみにRt君に「これまで習った4つの暗唱のうち、どれが一番好き?」とたずねると、今日合格した風林火山を挙げてくれました。「一番長いから」というのと、「動くこと雷震のごとし」という最後の部分を指差して、「お母さんが「ここがかっこいいね」と言ってた」からだそうです。

 

さて、今回の素話は、「竜退治の英雄」、ジーフリトのお話をしました。アイスランドの『エッダ』(詩のエッダ)に、シグルドという英雄が登場します。ジーフリトはそのドイツ版、『ニーベルンゲン・リート』に出てくる英雄です。

ただ、『ニーベルンゲン・リート』の中では、「ジーフリトが竜の血を浴びて武器の通らない体を得た」と、さらっと書かれているだけなので、今回の素話は、『エッダ・グレティルのサガ』(中世文学集Ⅲ、ちくま文庫)にある、『ファーヴニルの歌』を下敷きにしました。

あるところに鍛冶屋(いわゆるドワーフ)の兄弟がいました。名前はファーヴニルとレギン。兄弟はゆえあって莫大な遺産(財宝)を手にしますが、兄のファーヴニルがそれを独り占めにしてしまいます。ファーヴニルは、その宝を誰にも取られないようにと夜も昼も見張っているうちに、とうとうその姿が竜になってしまいます。そして人里離れた洞に住みつき、宝の山をベッドにして眠るようになります。侵入者があれば、食い殺すか焼き殺すかです。

一方、弟のレギンは何とかファーヴニルを殺して宝を取り返したいと思い、ジーフリト(シグルド)という若者を養子にして育て上げます。このジーフリト、誰にも負けたことのない戦士に成長するのですが、困ったことに、「怖い」という感情を知らずに育ちます。そしてレギンにファーヴニルを殺すことをそそのかされます。ジーフリトは、「ファーヴニルを殺したらその心臓を持ち帰ってほしい」とレギンに言われ、快く承知します。(なんだか『桃太郎』の話にちょっとだけ似ている気がします)

普通の人間ならば、竜と聞くと怖気づきます。けれどもジーフリトには竜が怖くありません。ジーフリトは、レギンに一振りの剣(名前はエッダではグラム、ニーベルンゲンではバルムンク)を作ってもらうと、竜退治に意気揚揚として出かけます。

ただし、どんなにジーフリトが強くても、またどんなにすごい名剣を持っていても、それではまだファーヴニルに勝てません。なぜなら、ファーヴニルの鱗は、どんな剣でも突き通すことはできないからです。狙うとすれば、鱗のない腹。けれども、竜はいつも腹の下に財宝を敷いていて、腹が見えない姿勢を取っています。

そこでジーフリトは、竜の行動を観察します。竜は、水を飲む時だけ洞の外に出ます。それも、いつも決まった水飲み場へと赴くために、森の中の同じ道を通ります。ジーフリトはその足跡を調べ、道の途中に穴を掘ります。竜を落とすための落とし穴ではなくて、自分が入るための、人一人用の大きさの穴です。そこにジーフリトは入り、葉で天井を覆い隠すと、竜がその上を通過するのを待ち構えます。

案の定、竜がやってきました。

竜は、いつか誰かに自分が殺されるなどということは、さらさら思っていなかったのでしょう。油断しきった竜の腹が、思惑通り、ジーフリトの頭上に現れました。ジーフリトは渾身の力を込めて、そこに剣を突きたてました。

すると、竜の体から、おびただしい血があふれ出し、ジーフリトの体にかかりました。すると、思ってもみなかったことが起こりました。その血のかかった部分が、たちまち鋼のように固くなったのです。こうしてジーフリトは、どんな武器でも傷つくことのない、不死身の肉体を得たのでした。

けれども、ちょうどその時、落ちてきた一枚の葉が、ジーフリトの背中にぴったりとはり付いていました。そして、その部分だけが跡になり、血が振りかからなかったのです。そこが、ジーフリトのたった一つの弱点となります。

さて、竜(もともと人間)のファーヴニルを退治したジーフリトは、約束通り、レギンのもとに竜の心臓を持ち帰ります。「心臓を火であぶってくれ」とレギンが言うと、彼はその通りにします。

心臓から油がしたたり落ち、焼けたかどうかをたしかめようとして、ジーフリトは、肉を触ろうとします。するとその瞬間、「あちっ」となったジーフリトは思わず指を口に運びます。と同時に、指についていた油をなめたことになり、そのとたん、まわりの鳥たちの声が分かるようになります。

その鳥たちの会話から、彼は、ファーヴニルの心臓を食べた者はとてつもない力(血の方は防御力でしたが、こちらは攻撃力)を得られるということと、レギンが自分を殺そうとしていることを知ります。

こうしてジーフリトは、逆にレギンを殺してしまいます。またファーヴニルの財宝を使って、一国の王になります。

無敵のジーフリト。

けれども、彼もまた間もなく命を落とします。

なぜなら、その背中にある弱点の秘密がうっかり洩れてしまったからです。(そのくだりは、実は前回の『心臓を持たない巨人』とも似ています)

そこで時間が来てしまったので、その話はまた別の機会にとになりました。