ことば2~4年(金)(2)

福西です。先のエントリーの続きになります。

一方で、Rちゃんは『青い鳥の幸せ』を書き綴っています。「これは今までで一番の作品にしたい!」との意気込みで、今回は特にその構想を練るところに付き合いました。Rちゃんは自分専用のノートを持っていて、そこにどんどんアイデアが飛び出して来る様子は、とても生き生きとしていて楽しそうでした。

物語の書き出しは、青い鳥をまだ見たことのない青が、同じ幼稚園の子にいじめられている赤い鳥を見つけてそれを助けるところから始まります。この辺りの、自分からは何もしていないのに、関係のない他者によって心の平静を乱される「心無い仕業」が、どうやら今学校でもRちゃんの向き合っているテーマのようです。

面白いことに、Rちゃんは「人間が青い鳥を捕まえて幸せになる」ということではなくて、その題名が示すとおり「人間にはどうすれば青い鳥を幸せにしてあげられるのか?」という視点で書きたいそうです。つまり自分本位な幸福の追求ではなくて、他者の幸福(他者の心の平静を守ること)が、自分にとっての幸福になるというストーリーを描きたいのだそうです。このようなひねりは、Rちゃんのオリジナリティだと感心しました。

さて、赤い鳥を助けて、6才の誕生日を迎える青が、その前日に見た夢の中で、自分の心に入り込みます。そこでは、現実世界で目に見えなかったものたちが見えるようになり、聞こえなかったものが聞こえるようになる、という設定です。これはもちろん『青い鳥』をお手本にしています。(そして、目に見えない世界での青の経験自体が、お父さんやお母さんなど周囲の人にとって目の見えない出来事であるというパラレルな関係にあります。)

さて青はその世界の中ではしかし、自分の心をなくしていて、それを取り戻して帰るという目的を課せられます。そのためには4羽の青い鳥をそれぞれ4つの別の世界で捕まえて、最後に「夢の女王」に会わないといけません。そして女王の持っている5羽目の鳥をもらって、夢の扉を開けてもらわないといけません。

青の世界は自分の心の中です。自分の心の中で自分の心を取り戻すという、入れ子構造になっています。

そして、最初の「時計の世界」では、柱時計の歯車に挟まった青い鳥を捕まえた時、そこを統べる「時間の小人」から「青い鳥の気持ちを考えたことがあるのか?」と聞かれます。「え? 青い鳥の気持ちって?」と青が言うと、「なんだ、そんなことをも分からずに、夢の女王に会おうとしているのか?」と小人に蔑まれてしまいます。

自由に空を飛びたいはずの青い鳥を捕まえて行くことが、この世界の住人にとっては、青がただ自分が元の世界に帰りたいという身勝手な行為を繰り返していると映り、非難されてしまうのです。それが青の葛藤となります。

さらに二つ目の世界では、自分がしたことで青い鳥が死んでしまいます。青は最初「自分は悪くない」と言い張って自分をかばうのですが、その気持ちがだんだんとけていって、最後には「ごめんなさい」の一言が出ます。その時その真心が、その死んだ青い鳥にとっての「幸せ」で、それが薬となって生き返ります。

そして次の「夢の世界」では、青い鳥、すなわち未来の夢を捕まえて売りさばく密猟者たちが登場します。そこで青はその出来事が自分のせいにされないように、最初は見て見ぬふりをしますが、ついには勇気を出して(青い鳥のしてほしい気持ちを理解して)立ち向かいます。

このようにRちゃんは、各世界をただ順番に見て通り過ぎるのではなくて、昔話によくある、謎かけを(必要な助力を得ながら)解決していくという筋を採用しています。Rちゃんのアイデアノートを見ると、4つの世界で起きる出来事とそのつながりが一杯書き付けられていました。

青は、大人でも難しいことを、ある意味誰もが直面したくないことを経験するために、世界をさまよわないといけません(『青い鳥』とは逆のモチーフです)。しかしそのような心の練習を経て、青は再び心を取り戻していきます。当たり前にあると思っている心をいったん失くしておいてから、そこから再び本質的なものを拾い上げて再構築するという試みが、素晴らしい要素だと感じました。(まるでCogito,ergo sum.のようです。)

そして最後に夢の女王の元へたどり着きます。この女王は善良で、四羽の青い鳥の気持ちを理解した青のために、夢の扉を開けてくれます。そこはさまざまな夢が現実の世界に向けて飛び立っていく場所で、青もその一つの夢(つまり青自身の夢)の扉から出て行くのですが、そのとき青は五羽目の青い鳥を胸に抱いていて、それが元の世界に戻る瞬間、彼女の胸の中に消えてしまいます。

と、ここまでがRちゃんの今書いているあらすじです。Rちゃんは不安そうに「私のメッセージが読者に伝わるかなあ…」と言っていたので、私からは「青い鳥が青の胸の中に消えたことで十分伝わると思う」と言って励ましました。

Rちゃんの作品の中では、青い鳥の持つ意味は「幸福」そのものというよりは、夢や未来や良心を象徴しており、それ自体が幸福になるには自分は何をしたらいいか、何をしてはいけないかまでを具体的に考えようとして、漠然とした状況から一歩踏み込んでいるところが、創造的で素晴らしいと思います。

また夢の女王の扉から、青は現実の世界に戻って来るわけですが、もし心を持ち帰ることに失敗した時には、現実の世界ではなく、暗闇の世界に戻ってこなければならないという制約もまた、厳しい視点だと思いました。

書きながらRちゃんがこのように言っていました。

「夢を持っている人は、決して相手をいじめたり悪いことはしないと思う。夢がないからそういうことをしているんだと思う。だから夢は大事で、夢がなくなるとあたりは暗闇になってしまう」と。

その「夢は光である」という、Rちゃんの中から出てきた一つの解決案を、ぜひ作品の中で書き切ってほしいと願っています。そして、青が、自分の誕生日の朝に戻ってきて、おばあちゃんからプレゼントとしてもらった「それ」を、「あれがこれだ」と言って喜べることを。何週間かかっても、きっとこの作品は価値があると思います。